40代(男)アバターで無双する少女

かのよ

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297 船、手を取り

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「おかしい……です、の!」
「そうね」
 久仁子と龍田が乗り込んでいったスタッフ用区画の最奥は、確かにクルーズ船に乗せるには違和感のある機材が詰められていた。通路はどんどん狭くなり、久仁子の肩幅ほどだけ残して他全ての壁を機材が埋め尽くしている。現在進行形で処理をしているのか、インジケーターがちかちかと瞬きファンが唸る音が耳についた。
 避難灯の明かりが無機質に部屋の床を照らすが、全体的にかなり暗い。足元が明るいのをいいことに、前を歩く龍田は長い足のコンパスを生かして大幅にテンポよく歩いていく。久仁子はついていくのがやっとだ。
 息を切らすギリギリのペースで小走りする。
「これでフルダイブのフィードバックをしているのは間違いないけど、肝心のプレイヤーが寝ている場所は別ってわけね」
「別のフロア?」
「多分フロアは同じ。ケーブルもタダじゃないわ。短い方がいいに決まってるものネ」
「通信状況は? 普通の回線なんて全く使えませんの」
「船なんだから当たり前じゃないのよぉ。フェーズドアレイアンテナでも乗っけてんのね……有線で個々の処理全部ここで束ねて、船からまとめて衛星通信伝いに送受信かけてるんだわ」
「じゃ、ここってハブ的な空間ですの?」
「人間がいないってことはそうでしょうね。人は人用のシングルルームとか?」
「へや?」
「ええ、客室よ。マス向けクルーズ船だもの……あ、想像もつかない? 流石お嬢様」
「し、失敬な! ちゃんと分かってますの!」
 久仁子は一瞬どきりとした。大衆向けクルーズの中身など想像すらしたことないが、落ち着いて見た風景から考察する。チェックインに並ぶたくさんの客と、ベッドの関係で二人組が多いことなどは分かっている。となると庶民向けホテルを模しているのだろうか。部屋とはあの監獄のような小さな部屋をさしているに違いない。
「スタッフにはお客の一種として『生体のメンテ』させてる、とか? じゃないと理屈に合わないもの」
「スタッフって船の普通のスタッフのことですの? 計画に関係ないでしょうに」
「だからこそじゃないのよぉ。人件費的にも、計画のためだけに囲うより他の仕事と同時進行なら安く済むじゃない」
「なんと惨い目に」
「どうせずっとログインしっぱなしよぉ~? 狭い部屋借り上げて寝かせて、足がつかない海の上を移動して……そう思うとコレ便利ねえ。ハワイじゃなくってハワイ諸島四島クルーズ船に乗っければ良かったかしら?」
「感心してないで救助しますの!」
「あら、まともな人間みたいなこというじゃないのヨォ!」
 身体をくねらせて茶化す龍田を睨みながら、久仁子が鼻息を荒くする。
「人権だとか命の尊さとか糞食らえですの、本当関係ありませんの。ただ一点、ガルド様がそう望んでおりますの。ならば全力でやるだけのことですのよ」
「とかいって、ヒトがむやみに死ぬのは嫌なんでしょう?」
「貴女が無頓着になりすぎですのよ!?」
「忘れたわよ、悲しかったころのことなんて。そんなことより優先すべきことがあるもの」
「そんなこと……」
「阿国ちゃんはか~なりコッチ寄りだと思うけど」
 龍田がちらりと後ろを歩く久仁子へ視線を向けた。普段は口紅で輪郭がはっきりしている唇だが、男性の恰好をしている今は何も塗られていない。見慣れない龍田の珍しい笑みに、久仁子は心底不気味さを感じた。
「理解、できませんの」
「お互い理解できるような精神構造してないじゃない」
「いいえ、ワタクシの精神の筋はガルド様で出来てますの。指示通り動くことが目的であって……」
「それって、ガルドちゃんのふるまいが『今のところ理想に近い』からでしょう?」
 真剣な声で前を見ながら言う龍田に、久仁子がたじろぐ。
「今のところ? えっ、いえ、昔からですの!」
ヒロイック英雄的よねぇ。筋の通ったいいオトコよ。慈しみもあって、冷静で、有能で、ちょっと昔かたぎ。黙って俺の背中についてこい的な」
「そ、そうですの。ガルド様はヒーローですの。昔気質、いいではありませんの。ワタクシ、なよなよした奴嫌いですの」
「ヒーローよ、ホント。いわゆるスーパーマン的なリーダーシップという意味ではないけどネ」
「そういうアメコミヒーローは不要ですの。求められるのは……」
「無言で航路の先を見つめるフィギュアヘッド」
 久仁子の言葉へかぶせるようにして、龍田が低い声を出した。暗い通路の先を見ているようだが、真っ暗で何も見えない。床が続いていることだけ、点々と続く非常灯の小さな明かりが道しるべになって見えている。
「船首の像のことですのね。ええ、なんだか想像つきますの。あの眼光で荒れ狂う海を睨みつけ、無事な航海を民らが祈る……それこそ女神ですの」
「ウッフフ! 女神ぃ? ヒーローって言っておいて?」
「ええ、女神ですの。天使でもありますの」
「随分重たい理想を重ねてるじゃないのよ。ガルドちゃんのリアル、知ったのでしょう? あの子と彼は同一人物よ?」
 通信機器が並んでいる通路の中ほどで龍田が突然立ち止まり、左側の壁へ腕を突っ込んだ。暗いこみ上く見えなかった久仁子は、突然の行動に止まる準備ができていない。
「ひゃ」
「おっと」
 ドアがあったらしい。ドアノブを握る龍田の腕に腹をぶつける形で止まった久仁子は、そのまま背の高い龍田に腰を抱かれる形で受け止められる。焦る暇もなくドアが開き、中に続いていた階段がぼんやりとした照明に照らされ見えた。
「佐野みずきは、田岡佐五郎さごろうの代わりよ」
「……かわり?」
 腰に回された腕を振りほどこうともがくが、龍田の数倍太い腕相手ではびくともしない。筋トレをしている人間特有の筋とハリが強い腕に押され、ドアの向こうへと引っ張り込まれた。人一人分の幅しかない細い階段が数段ごとに細かく折り返されている。
 龍田は久仁子の腰から手を放し、数段登ってから振り返って手を差し伸べた。
「それがどうしても許せなかったのヨ、アタシ」
「ベルベット?」
「あの子が使われるなんて聞いてなかったし、怒ってるってこと! ね、阿国ちゃんはガルドちゃんのためならなんだって出来るわよね?」
「もちろんですの」
「じゃあ頑張りまショ!」
 久仁子は頷く。龍田の動機が分かってきた。久仁子が嫉むほどの関係性だったロンド・ベルベットの絆は、やはり強固でゆるぎないものだ。犯行の動機に挙げるほどの怒りが「佐野みずきは代わり」という言葉にこもっている。もちろん久仁子も、ガルドを拉致し不自由を与える存在が許せない。同じだ。
「共同戦線ですの」
 手を取る。ネイルが剥げてしまっている龍田の指には、先の先まで力が入っている。久仁子の指にも力が入り、鎖のような硬さで噛み合った。
 共犯者意識の芽生えに惑わされた久仁子は、龍田が言う「使われるなんて聞いてなかった」という言葉に疑問を持たなかった。
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