127 / 401
122 人の少ない攻城戦
しおりを挟む
攻城戦は、始まった時点で専用エリアにいたプレイヤー全員が参戦者として扱われる。
「いっそさっさとフラッグ取って、終わらせちゃいましょうよぉー」
ボートウィグが愚痴った。走る彼は、手に身の丈を超える長い杖を構えている。ちらりと伺えば、それは単詠唱魔法スキルを得意とするハイクラスな杖だった。深い赤を基調にシルバーの装飾が施された、火属性の単詠唱をブーストする効果がある杖。
ボートウィグの愛用する杖で、セットしてきたスキルにもおおよそ予想がついた。ガルドは走りながら予測を言葉にする。
「向こうは勝ちに来る。来ないわけがない。まず、付き添いは全員拉致されてるとして、アイツらが居なかったのが気になる」
「う、確かに鈴音のオトモばっかりこっちでしたね。ヴァーツのオトモが居ないのは……」
「GMが意図的に鈴音をクラムベリ、レイド班をディスティラリに置いた。多分」
「当たってると思うっす。全員鈴音なんて変だと思ったんすよー。ってことはディスティラリ側、確実に攻めに来るじゃないっすか~やだ~」
「だから勝者なしに持ち込むのがベスト」
「報酬なくてもいいからせめてペナルティは勘弁してほしいっす!」
「なら抑えるしかない」
「っしゃー! 支援はお任せください閣下!」
「ああ」
ボートウィグが意欲を見せ始めた。砂混じりの雪原を走り、向こう側から来るはずのプレイヤーが見えるよう、なるべく小高いポイントを目指す。ガルドは自分のアバターが発する威圧と存在感を発揮するため、なるべく目立つ場所に陣取るよう心がけていた。
「マップ、相変わらず黒!」
「予測」
「いつもならあと三分くらいっす」
いつも通りボートウィグがマネジメントを述べた。攻城戦そのものは、ガルドとボートウィグのコンビでいつもやってきたものと変わらない。
「ならそろそろ」
「あ、罠どうするんすか?」
「持ってない……そっちは」
「無いっす。まさかの攻城戦に、装備も全く合ってないっす」
二人で一緒にため息をつき、とりあえず武器を抜いて足を止めた。
リスポーン回数に制限のない攻城戦は、基本的にゾンビアタックで勝負する陣取り合戦だ。早い段階で前に出すぎると、やられて復帰する間に陣地を多く奪われてしまう。セオリーでは「最初のエンゲージはおおよそ真ん中でぶつかるくらいがちょうどいい」とされていた。
ましてや人数的には圧倒的不利だ、とガルドは眉間にシワを寄せる。
「なんとか踏ん張るしかない」
「あ、向こう、見えた!」
「案の定」
「あはは、っすねぇ」
感動の再会にしては、全員が嬉々として笑みを浮かべ過ぎていた。
様々な種のプレイヤーたちが勢いよく走ってきている。全員男のアバターだ。こちらを確認すると、一斉に武器を抜いた。最後方にいる複合詠唱魔法職が走りながら青に光るのを見つけ、ガルドは助手に声をかけた。
「ウィグ、氷来る。火、チャージ増しで一、ブロック」
「っす!」
「あと榎本に人数報告」
そう言い残し、ガルドは走り出した。
「キタキタキタ! ガルドだ!」
「やっべ、興奮してきた」
「一人? 一人なの?」
騒がしく喋りつつ走ってきた顔ぶれに、ガルドは嬉しくなりつつも呆れた。
「少し落ち着け……」
「いや~無理無理~」
あっさり拒否された戦闘放棄の申し出も予想済みで、さらに飛んできた手榴弾も「相変わらずだな」とガルドは見切って避けた。背後から避けた手榴弾の爆発音。
飛んだ先に来る銃弾スキルのロックオンアラートに、相手の武器種で着弾時間を予測する。数字にできない感覚の間を置き、ガルドは侍抜刀スキルでのパリィをかけた。
刀を抜く時代劇のようなサウンドエフェクト、そして風が吹く。
「うっわ、ほんまかいや。イケるて思とったのに」
銃のスキルは早すぎて確かにパリィしにくいだろう、とガルドは頷いた。ただの銃撃なら通常攻撃で弾くだけだが、スキルとなると甘んじて受けるか避けるか、というのが一般的だ。
「奥にいるのボートウィグ? なーんだ、クラムベリにいるのって鈴音だったのかよ」
「行けばよかったな。引きこもってる場合じゃなかったわ。ははは」
敵陣営だが、同じギルドの仲間の彼らとはこうして戦闘中もラフに会話できる。
「ガルドと訓練以外で当たるなんて、随分久しぶりじゃないですか?」
「ああ」
そう言いながら斬りかかってきたのは、ロンベルレイド班でも一番腕のたつ片手剣ヒューマン種の男だった。システムで補助される前転ローリング回避を脳波入力して避ける。起き上がる瞬間を狙う氷属性の複合詠唱魔法スキルは無視した。
「止めないのか、けんうっど」
「止めませんよ。私もなんだかんだ暴れたいので」
「状況わかってても、か」
「わかってても、です。というよりこの人たち止まりっこないですって」
片手剣のプレイヤーは「けんうっど!」というネームで、性格は至って常識人だとガルドは思っていた。諦めの早さも知ってはいたが、嬉々として斬りかかってきている点を見るに、常識より快楽に惹かれる同類らしい。
氷の塊が三つ、ガルドに辿り着くより先に炎の塊一つとぶつかって弾けた。ボートウィグの魔法スキルによるブロックで、続けて遠い背後から「そんなに~!?」という悲鳴も聞こえる。
「お留守やな! そら、ここやァ!」
叫びながら元気に銃の通常攻撃を撃ってくる男へ、ガルドは「はぁ」と聞こえるようにため息をついた。
「なんや、辛気臭い。ちったぁ気張れ! 張り合い無いとつまらんわァ!」
煽られている。ガルドは関西弁をそう受け取り、真摯に対抗することにした。拳銃の細かい数発を大剣一振りでまとめて斬り払い、振り抜いたまま反動で動かない大剣を軸に無理やりジャンプする。
「ンフォ!? ほんまとんでもないな!」
「キタキタ! ヤベー!」
関西ガンナーと声の高いボマーが楽しそうに叫びつつ、動きだけは真剣に迫ってきた。剣から手を離さず飛んだガルドは、棒高跳びの要領で巨体を逆さまにさせたまま滞空する。その浮いたガルドを銃口が狙い、着地地点へ手榴弾が投げ込まれた。
「っと」
普段はここから兜割りかワンエイティのような簡単なスキルを使って、先にガンナーを潰すところだった。が、奇をてらってガルドは腕力を解く。
補助された武器の握りをパッと離し、剣の鍔を手すりのように掴んで体をグラインドさせた。弾丸は難なく避けられ、ガルドはそのまま接近しようと剣を引き寄せる。
ちょうどその時、手榴弾の小規模な爆発が起こった。
「む」
そこから巻き起こった爆風を受け背中に少々ダメージを負うが、ゲームシステムが起こす「爆破エフェクト・吹っ飛び」を受けて加速する。
ガルド自身も驚いたが、近接していたレイド班二人は悲鳴をあげた。
「ギャァッ!?」
「うわぁこっちくんなー!」
剣はまだきちんと握れていない。だが片方の肩はすぐにでも突き出せた。
「また来い、相手になる」
近場のボマーをタックルで吹き飛ばし、そのまま駆け抜けガンナーをも吹き飛ばし、手元に握り直した大剣を豪快に叩きつけた。被ダメージアクションで身動きが取れない二人をそのままコンボで嵌める。
声もなく氷の結晶が包み、少々の間を置いて気持ちよく砕け散った。
「閣下カッコいーい! ヒュー!」
ボートウィグが喜んでいるが、逆にその声で他のプレイヤーを引き寄せていく。気付いているのか、敵を引き連れたままガルドの元へ走ってきた。
「やばいっすよ、予想より多いっす! こっちが四人ってことはぁ、さっきの二人と合わせて全部で六人!」
「不正解ですね」
静かな否定の言葉。片手剣士のけんうっどが迫ってくるのを、ガルドは危なげなくパリィで受け止めた。反撃に高速のカウンターを仕掛けてくるが、反動の重いガルドの大剣は間に合わない。
「六人以上か」
「はい、全部で十一人」
ガルドは見切りでカウンターを避け、そのまま前進し剣士けんうっどの目の前へ再出現した。青白く光りながら眼前で止まり、右肩を少々突き出してタックルの初動を起こす。
そのままラグビー選手のように突っ込んだ。
「ちょ、ちょっ、待って——うぎゃ!」
「クラムベリよりずっと多いっすね」
悲鳴を無視したボートウィグが話を続けながら、火の玉で追い打ちをかけた。
「こっちが話してるのになんなんですかもう! そちらは? 少ないんですか?」
氷漬けになりながらけんうっどが聞いてきた。
「六人っす!」
「十人だ」
「あべこべじゃないですか! どっちが本当!?」
「あーっと、閣下はクラムベリじゃなくて城下町から~……」
ボートウィグは説明を切り上げた。氷ごと砕け散りながらツッコみを入れた常識人に、今後気苦労が増えないかとガルドは心配になる。
「会話したからオンライングリーン点いてますね」
「さっきの続き、連絡頼む。こっちは潰す」
「へへへ、りょーかいっ!」
雑務を頼むたびに満面の笑みで喜ぶボートウィグを置いて、ガルドは追いかけてきた他のプレイヤーたちと対峙した。
榎本の方へ五人行っているらしい。個人チャットから聞こえてきた榎本の<おちたーっ! 道ずれ三人!>という声に<上々だな>と返した。
走る。生き返り戻ってきたプレイヤーと少々話し、殺し、殺されリスポーン地点へ戻る。走る。前線を押し進めてきたプレイヤーと会話し、殺し、前線を進める。殺される。リスポーン。走る。
ガルドはひたすら、引き分けを狙うべく戦い続けた。
「戻りました閣下!」
「二分ここ頼む」
「あ~閣下~待って死なないで~!」
氷になり砕け散りながら、背後から走ってきたボートウィグにそう言い残して消える。悲鳴がぼんやり聞こえるが、このペースならばフラッグ全て取られる程は攻め込まれないだろう。
復活まで数秒かかる。ガルドの暗転した視界の中央には、リスポーンまでの時間と攻城戦終了までの残り時間、そして陣地フラッグの制覇率が現れた。白い文字はフロキリの数字フォントでカウントダウンされ、制覇率はどちらの陣営も「フラッグ取得ゼロ」と書かれていた。
ガルドは復帰までに仲間二人へ情勢を伝え、見られていなかった文字メッセージを指でスクロールしていく。クラムベリにいる鈴音とマグナから来ていた長文メッセージ、そしてル・ラルブ方面へ行っている仲間たちへ送っていた報告メッセージの返事を感知で読んだ。
数秒でこなした後、リスポーンポイントである古木の麓にガルドは片膝をついて座り込んでいた。
「よし」
跳ね起き、ボートウィグが抑えているはずの前線ポイントまで走り出す。ガルドは先ほどまでレイド班に呆れていたが、これほど少人数の攻城戦にガルドもなんだかんだ震えるほど喜びを覚えていた。
多い時ではこの雪原に二百人がつめかける。
これほど閑散とした攻城戦エリアを走るのは、おそらくスタート当初に始めたメンバーくらいだろう。オンラインゲームはプレイ時間が上手さに繋がるが、彼らはフロキリから後に発売されたタイトルへほとんど流れてしまっていた。残っているのは酔狂なプレイヤー達ばかりで、その中にはジャスティンが含まれる。
ガルドが初めたころがプレイ人数のピークだ。
<閣下すんません>
<何人抜かれた>
<六人っす!>
無理もない、とガルドは頷いた。ボートウィグの装備と違い、ディスティラリ側のロンベル・レイド班はレイド向きの装備で来ている。モンスターに比べれば遥かにHPの低いプレイヤーを一瞬で潰す、瞬間火力の高さを最優先にして選ばれた装備だ。
<やばくないっすか、このままじゃフラッグ一個取られちゃうんじゃ……>
<大丈夫だ>
ガルドはそう返事をし、追いついたメンバーを見据えて一つ笑う。
「楽しい」
「だろガルド! ヒャヒャヒャ!」
「余裕ですね。いいんですか? このままじゃペナルティかぶりますよ?」
「後ろから来る。こちらはもう勝てない。それでも負けない」
「——後ろ?」
ちらりと背後を見ながらガルドが言うと、いざ武器を振るう段階になってレイド班達がガルドの背中側へ視線を伸ばした。
地響きが聞こえる。
「誰か来るっぽいじゃん」
「攻城戦ばっかしてた俺らに、物好きミーハーな鈴音が勝てるわけないジャーン」
「ああ、そういえば共有してませんでしたが」
片手剣をパリィ用に刺突で構えたけんうっどが、一人走るスピードを速めながら言う。
「クラムベリには鈴音の他に来てるらしいですよ」
「え、だれが」
「参謀です」
ガルドの頭上を飛び越え、弓矢の雨がレイド班に降り注いだ。
「いっそさっさとフラッグ取って、終わらせちゃいましょうよぉー」
ボートウィグが愚痴った。走る彼は、手に身の丈を超える長い杖を構えている。ちらりと伺えば、それは単詠唱魔法スキルを得意とするハイクラスな杖だった。深い赤を基調にシルバーの装飾が施された、火属性の単詠唱をブーストする効果がある杖。
ボートウィグの愛用する杖で、セットしてきたスキルにもおおよそ予想がついた。ガルドは走りながら予測を言葉にする。
「向こうは勝ちに来る。来ないわけがない。まず、付き添いは全員拉致されてるとして、アイツらが居なかったのが気になる」
「う、確かに鈴音のオトモばっかりこっちでしたね。ヴァーツのオトモが居ないのは……」
「GMが意図的に鈴音をクラムベリ、レイド班をディスティラリに置いた。多分」
「当たってると思うっす。全員鈴音なんて変だと思ったんすよー。ってことはディスティラリ側、確実に攻めに来るじゃないっすか~やだ~」
「だから勝者なしに持ち込むのがベスト」
「報酬なくてもいいからせめてペナルティは勘弁してほしいっす!」
「なら抑えるしかない」
「っしゃー! 支援はお任せください閣下!」
「ああ」
ボートウィグが意欲を見せ始めた。砂混じりの雪原を走り、向こう側から来るはずのプレイヤーが見えるよう、なるべく小高いポイントを目指す。ガルドは自分のアバターが発する威圧と存在感を発揮するため、なるべく目立つ場所に陣取るよう心がけていた。
「マップ、相変わらず黒!」
「予測」
「いつもならあと三分くらいっす」
いつも通りボートウィグがマネジメントを述べた。攻城戦そのものは、ガルドとボートウィグのコンビでいつもやってきたものと変わらない。
「ならそろそろ」
「あ、罠どうするんすか?」
「持ってない……そっちは」
「無いっす。まさかの攻城戦に、装備も全く合ってないっす」
二人で一緒にため息をつき、とりあえず武器を抜いて足を止めた。
リスポーン回数に制限のない攻城戦は、基本的にゾンビアタックで勝負する陣取り合戦だ。早い段階で前に出すぎると、やられて復帰する間に陣地を多く奪われてしまう。セオリーでは「最初のエンゲージはおおよそ真ん中でぶつかるくらいがちょうどいい」とされていた。
ましてや人数的には圧倒的不利だ、とガルドは眉間にシワを寄せる。
「なんとか踏ん張るしかない」
「あ、向こう、見えた!」
「案の定」
「あはは、っすねぇ」
感動の再会にしては、全員が嬉々として笑みを浮かべ過ぎていた。
様々な種のプレイヤーたちが勢いよく走ってきている。全員男のアバターだ。こちらを確認すると、一斉に武器を抜いた。最後方にいる複合詠唱魔法職が走りながら青に光るのを見つけ、ガルドは助手に声をかけた。
「ウィグ、氷来る。火、チャージ増しで一、ブロック」
「っす!」
「あと榎本に人数報告」
そう言い残し、ガルドは走り出した。
「キタキタキタ! ガルドだ!」
「やっべ、興奮してきた」
「一人? 一人なの?」
騒がしく喋りつつ走ってきた顔ぶれに、ガルドは嬉しくなりつつも呆れた。
「少し落ち着け……」
「いや~無理無理~」
あっさり拒否された戦闘放棄の申し出も予想済みで、さらに飛んできた手榴弾も「相変わらずだな」とガルドは見切って避けた。背後から避けた手榴弾の爆発音。
飛んだ先に来る銃弾スキルのロックオンアラートに、相手の武器種で着弾時間を予測する。数字にできない感覚の間を置き、ガルドは侍抜刀スキルでのパリィをかけた。
刀を抜く時代劇のようなサウンドエフェクト、そして風が吹く。
「うっわ、ほんまかいや。イケるて思とったのに」
銃のスキルは早すぎて確かにパリィしにくいだろう、とガルドは頷いた。ただの銃撃なら通常攻撃で弾くだけだが、スキルとなると甘んじて受けるか避けるか、というのが一般的だ。
「奥にいるのボートウィグ? なーんだ、クラムベリにいるのって鈴音だったのかよ」
「行けばよかったな。引きこもってる場合じゃなかったわ。ははは」
敵陣営だが、同じギルドの仲間の彼らとはこうして戦闘中もラフに会話できる。
「ガルドと訓練以外で当たるなんて、随分久しぶりじゃないですか?」
「ああ」
そう言いながら斬りかかってきたのは、ロンベルレイド班でも一番腕のたつ片手剣ヒューマン種の男だった。システムで補助される前転ローリング回避を脳波入力して避ける。起き上がる瞬間を狙う氷属性の複合詠唱魔法スキルは無視した。
「止めないのか、けんうっど」
「止めませんよ。私もなんだかんだ暴れたいので」
「状況わかってても、か」
「わかってても、です。というよりこの人たち止まりっこないですって」
片手剣のプレイヤーは「けんうっど!」というネームで、性格は至って常識人だとガルドは思っていた。諦めの早さも知ってはいたが、嬉々として斬りかかってきている点を見るに、常識より快楽に惹かれる同類らしい。
氷の塊が三つ、ガルドに辿り着くより先に炎の塊一つとぶつかって弾けた。ボートウィグの魔法スキルによるブロックで、続けて遠い背後から「そんなに~!?」という悲鳴も聞こえる。
「お留守やな! そら、ここやァ!」
叫びながら元気に銃の通常攻撃を撃ってくる男へ、ガルドは「はぁ」と聞こえるようにため息をついた。
「なんや、辛気臭い。ちったぁ気張れ! 張り合い無いとつまらんわァ!」
煽られている。ガルドは関西弁をそう受け取り、真摯に対抗することにした。拳銃の細かい数発を大剣一振りでまとめて斬り払い、振り抜いたまま反動で動かない大剣を軸に無理やりジャンプする。
「ンフォ!? ほんまとんでもないな!」
「キタキタ! ヤベー!」
関西ガンナーと声の高いボマーが楽しそうに叫びつつ、動きだけは真剣に迫ってきた。剣から手を離さず飛んだガルドは、棒高跳びの要領で巨体を逆さまにさせたまま滞空する。その浮いたガルドを銃口が狙い、着地地点へ手榴弾が投げ込まれた。
「っと」
普段はここから兜割りかワンエイティのような簡単なスキルを使って、先にガンナーを潰すところだった。が、奇をてらってガルドは腕力を解く。
補助された武器の握りをパッと離し、剣の鍔を手すりのように掴んで体をグラインドさせた。弾丸は難なく避けられ、ガルドはそのまま接近しようと剣を引き寄せる。
ちょうどその時、手榴弾の小規模な爆発が起こった。
「む」
そこから巻き起こった爆風を受け背中に少々ダメージを負うが、ゲームシステムが起こす「爆破エフェクト・吹っ飛び」を受けて加速する。
ガルド自身も驚いたが、近接していたレイド班二人は悲鳴をあげた。
「ギャァッ!?」
「うわぁこっちくんなー!」
剣はまだきちんと握れていない。だが片方の肩はすぐにでも突き出せた。
「また来い、相手になる」
近場のボマーをタックルで吹き飛ばし、そのまま駆け抜けガンナーをも吹き飛ばし、手元に握り直した大剣を豪快に叩きつけた。被ダメージアクションで身動きが取れない二人をそのままコンボで嵌める。
声もなく氷の結晶が包み、少々の間を置いて気持ちよく砕け散った。
「閣下カッコいーい! ヒュー!」
ボートウィグが喜んでいるが、逆にその声で他のプレイヤーを引き寄せていく。気付いているのか、敵を引き連れたままガルドの元へ走ってきた。
「やばいっすよ、予想より多いっす! こっちが四人ってことはぁ、さっきの二人と合わせて全部で六人!」
「不正解ですね」
静かな否定の言葉。片手剣士のけんうっどが迫ってくるのを、ガルドは危なげなくパリィで受け止めた。反撃に高速のカウンターを仕掛けてくるが、反動の重いガルドの大剣は間に合わない。
「六人以上か」
「はい、全部で十一人」
ガルドは見切りでカウンターを避け、そのまま前進し剣士けんうっどの目の前へ再出現した。青白く光りながら眼前で止まり、右肩を少々突き出してタックルの初動を起こす。
そのままラグビー選手のように突っ込んだ。
「ちょ、ちょっ、待って——うぎゃ!」
「クラムベリよりずっと多いっすね」
悲鳴を無視したボートウィグが話を続けながら、火の玉で追い打ちをかけた。
「こっちが話してるのになんなんですかもう! そちらは? 少ないんですか?」
氷漬けになりながらけんうっどが聞いてきた。
「六人っす!」
「十人だ」
「あべこべじゃないですか! どっちが本当!?」
「あーっと、閣下はクラムベリじゃなくて城下町から~……」
ボートウィグは説明を切り上げた。氷ごと砕け散りながらツッコみを入れた常識人に、今後気苦労が増えないかとガルドは心配になる。
「会話したからオンライングリーン点いてますね」
「さっきの続き、連絡頼む。こっちは潰す」
「へへへ、りょーかいっ!」
雑務を頼むたびに満面の笑みで喜ぶボートウィグを置いて、ガルドは追いかけてきた他のプレイヤーたちと対峙した。
榎本の方へ五人行っているらしい。個人チャットから聞こえてきた榎本の<おちたーっ! 道ずれ三人!>という声に<上々だな>と返した。
走る。生き返り戻ってきたプレイヤーと少々話し、殺し、殺されリスポーン地点へ戻る。走る。前線を押し進めてきたプレイヤーと会話し、殺し、前線を進める。殺される。リスポーン。走る。
ガルドはひたすら、引き分けを狙うべく戦い続けた。
「戻りました閣下!」
「二分ここ頼む」
「あ~閣下~待って死なないで~!」
氷になり砕け散りながら、背後から走ってきたボートウィグにそう言い残して消える。悲鳴がぼんやり聞こえるが、このペースならばフラッグ全て取られる程は攻め込まれないだろう。
復活まで数秒かかる。ガルドの暗転した視界の中央には、リスポーンまでの時間と攻城戦終了までの残り時間、そして陣地フラッグの制覇率が現れた。白い文字はフロキリの数字フォントでカウントダウンされ、制覇率はどちらの陣営も「フラッグ取得ゼロ」と書かれていた。
ガルドは復帰までに仲間二人へ情勢を伝え、見られていなかった文字メッセージを指でスクロールしていく。クラムベリにいる鈴音とマグナから来ていた長文メッセージ、そしてル・ラルブ方面へ行っている仲間たちへ送っていた報告メッセージの返事を感知で読んだ。
数秒でこなした後、リスポーンポイントである古木の麓にガルドは片膝をついて座り込んでいた。
「よし」
跳ね起き、ボートウィグが抑えているはずの前線ポイントまで走り出す。ガルドは先ほどまでレイド班に呆れていたが、これほど少人数の攻城戦にガルドもなんだかんだ震えるほど喜びを覚えていた。
多い時ではこの雪原に二百人がつめかける。
これほど閑散とした攻城戦エリアを走るのは、おそらくスタート当初に始めたメンバーくらいだろう。オンラインゲームはプレイ時間が上手さに繋がるが、彼らはフロキリから後に発売されたタイトルへほとんど流れてしまっていた。残っているのは酔狂なプレイヤー達ばかりで、その中にはジャスティンが含まれる。
ガルドが初めたころがプレイ人数のピークだ。
<閣下すんません>
<何人抜かれた>
<六人っす!>
無理もない、とガルドは頷いた。ボートウィグの装備と違い、ディスティラリ側のロンベル・レイド班はレイド向きの装備で来ている。モンスターに比べれば遥かにHPの低いプレイヤーを一瞬で潰す、瞬間火力の高さを最優先にして選ばれた装備だ。
<やばくないっすか、このままじゃフラッグ一個取られちゃうんじゃ……>
<大丈夫だ>
ガルドはそう返事をし、追いついたメンバーを見据えて一つ笑う。
「楽しい」
「だろガルド! ヒャヒャヒャ!」
「余裕ですね。いいんですか? このままじゃペナルティかぶりますよ?」
「後ろから来る。こちらはもう勝てない。それでも負けない」
「——後ろ?」
ちらりと背後を見ながらガルドが言うと、いざ武器を振るう段階になってレイド班達がガルドの背中側へ視線を伸ばした。
地響きが聞こえる。
「誰か来るっぽいじゃん」
「攻城戦ばっかしてた俺らに、物好きミーハーな鈴音が勝てるわけないジャーン」
「ああ、そういえば共有してませんでしたが」
片手剣をパリィ用に刺突で構えたけんうっどが、一人走るスピードを速めながら言う。
「クラムベリには鈴音の他に来てるらしいですよ」
「え、だれが」
「参謀です」
ガルドの頭上を飛び越え、弓矢の雨がレイド班に降り注いだ。
11
お気に入りに追加
760
あなたにおすすめの小説
運極さんが通る
スウ
ファンタジー
『VRMMO』の技術が詰まったゲームの1次作、『Potential of the story』が発売されて約1年と2ヶ月がたった。
そして、今日、新作『Live Online』が発売された。
主人公は『Live Online』の世界で掲示板を騒がせながら、運に極振りをして、仲間と共に未知なる領域を探索していく。……そして彼女は後に、「災運」と呼ばれる。
最悪のゴミスキルと断言されたジョブとスキルばかり山盛りから始めるVRMMO
無謀突撃娘
ファンタジー
始めまして、僕は西園寺薫。
名前は凄く女の子なんだけど男です。とある私立の学校に通っています。容姿や行動がすごく女の子でよく間違えられるんだけどさほど気にしてないかな。
小説を読むことと手芸が得意です。あとは料理を少々出来るぐらい。
特徴?う~ん、生まれた日にちがものすごい運気の良い星ってぐらいかな。
姉二人が最新のVRMMOとか言うのを話題に出してきたんだ。
ゲームなんてしたこともなく説明書もチンプンカンプンで何も分からなかったけど「何でも出来る、何でもなれる」という宣伝文句とゲーム実況を見て始めることにしたんだ。
スキルなどはβ版の時に最悪スキルゴミスキルと認知されているスキルばかりです、今のゲームでは普通ぐらいの認知はされていると思いますがこの小説の中ではゴミにしかならない無用スキルとして認知されいます。
そのあたりのことを理解して読んでいただけると幸いです。
神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜
FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio
通称、【GKM】
これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。
世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。
その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。
この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。
その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…
【第1章完結】デスペナのないVRMMOで一度も死ななかった生産職のボクは最強になりました。
鳥山正人
ファンタジー
デスペナのないフルダイブ型VRMMOゲームで一度も死ななかったボク、三上ハヤトがノーデスボーナスを授かり最強になる物語。
鍛冶スキルや錬金スキルを使っていく、まったり系生産職のお話です。
まったり更新でやっていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過しました。
Anotherfantasia~もうひとつの幻想郷
くみたろう
ファンタジー
彼女の名前は東堂翠。
怒りに震えながら、両手に持つ固めの箱を歪ませるくらいに力を入れて歩く翠。
最高の一日が、たった数分で最悪な1日へと変わった。
その要因は手に持つ箱。
ゲーム、Anotherfantasia
体感出来る幻想郷とキャッチフレーズが付いた完全ダイブ型VRゲームが、彼女の幸せを壊したのだ。
「このゲームがなんぼのもんよ!!!」
怒り狂う翠は帰宅後ゲームを睨みつけて、興味なんか無いゲームを険しい表情で起動した。
「どれくらい面白いのか、試してやろうじゃない。」
ゲームを一切やらない翠が、初めての体感出来る幻想郷へと体を委ねた。
それは、翠の想像を上回った。
「これが………ゲーム………?」
現実離れした世界観。
でも、確かに感じるのは現実だった。
初めて続きの翠に、少しづつ増える仲間たち。
楽しさを見出した翠は、気付いたらトップランカーのクランで外せない大事な仲間になっていた。
【Anotherfantasia……今となっては、楽しくないなんて絶対言えないや】
翠は、柔らかく笑うのだった。
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
VRMMO~鍛治師で最強になってみた!?
ナイム
ファンタジー
ある日、友人から進められ最新フルダイブゲーム『アンリミテッド・ワールド』を始めた進藤 渚
そんな彼が友人たちや、ゲーム内で知り合った人たちと協力しながら自由気ままに過ごしていると…気がつくと最強と呼ばれるうちの一人になっていた!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる