1 / 1
週刊人類誌
しおりを挟む
私は毎朝、目覚めると熱いシャワーとコーヒーを求める。
冴えた頭で私はいつものように電脳端末の前にある椅子に座った。
さぁ仕事を始めよう。
「最初の質問かい?なんだ、朝食は取らないのかだって?」
「朝一じゃ食事が喉を通らないタチなんだ。お腹が空いたらそのうち食べるよ。」
私はいつも通りコーヒーで満たされたお腹に満足感を覚えながら、電脳端末のスイッチを押した。
ほぼ全ての仕事が人間からAIに代替されたこの時代、私はAIチェックの仕事をしている。
仕事内容は至極簡単。
AIの仕事にミスがないか監察するだけだ。
私はマニュアルに沿ってAIから送られて来た資料に評価のチェックをいれていく。
良い、良い、普通、すごく良い、良い、良い、良い……
正直「悪い」の評価など付けたことがない。
もはやAIは人間より優秀になってしまった。
時々この仕事もAIに請け負ってもらった方がいいのでは、という考えが頭を過ぎるがすぐにその考えが間違っていることに気づく。
AIに人間の仕事が代替される過程で、当初AIを信じきれなかった人間は「AIの仕事の最終チェックは人間が行わなければならない」という条項をAI原則に盛り込んだのだ。
今の時代の人間からすると、とても不合理な条項を作ってくれたものだな、と思うが当時はAIも未発達の部分があったようで仕方がなかったのかもしれない。
現在、法律自体は全てAIが制定してくれていて、時代に削ぐわないものは早々に改定される。しかし、AI条項だけはAI自ら改定できないのだ。
人間のお偉い方はこの古き良きAI条項を改定するのに及び腰だ。なぜ明らかに変えた方がいい条項すら改定しないのか私には詳しくはわからないが、きっと旧時代のフィクションにでも取り憑つかれているのだろう。下手なことをするとAIが反乱を起こすと。
あぁそんなことを考えていたらシアターが見たくなってきた。今日の夜はあの映画を見ようか。
そうなどうでもいいことを考えながら黙々と仕事をしていると彼が私に話しかけた。
「そろそろ休憩を挟まれてはいかがでしょうか?休憩の間にいろいろ質問させて下さい」
システムに作業中断の指示を出し、私は彼の話に耳を傾けた。
「では改めまして、この度は私どもの取材をお受けしていただきありがとうございます。今回はAIチェックのお仕事に従事してくださっている皆様に、お仕事についての諸事を聞くという内容になっております」
「まず初めに、昨今は全ての人類に等しく余裕を持って暮らせる資金が毎日支給されています。労働の義務がなくなった今ではほとんどの人類は、人類にしかできない自分の好きなことにその人生の大半を捧げます。家族を愛し、芸術を極め、スポーツに打ち込み、学問にのめり込む。あなたのように仕事をする人は稀少な存在となってしまった。なぜ、あなたは働くのですか?この人類最後の仕事で」
「たいそうな理由はないよ。私はあなたがさっき言った人間が人生を捧げるはずのものに興味が持てないだけなんだ」
「なぜ、興味が持てないのですか?」
「なんでだろうね。スポーツを多少齧ってみたけど、周りの皆んなが凄く上手でね。なんだか興味を持てなくなってどれもこれもすぐに辞めてしまったよ。学問もそうさ、殆どの学問はAIの方が優秀だ。それでも好き好んでAIと切磋琢磨したがる連中もいるが私には、共感できない。そこで殆どの人と同じように人間にしかできない哲学、宗教学、芸術学なども学んではみたがあまり興味をそそられなかったよ。最近できたあの学問なんだっけ?哲学か宗教の派生の人間幸福学だったか?あれもつまらなそうだよね。みんな人間にしかできないことに躍起になってしまって、元来あまりやる気がない私は疲れてしまったよ。趣味がないという点では私は君と同じだね。」
「なんにも興味が持てないから仕事を始められたということでしょうか?」
「そうだけど、そうじゃないんだ。今の時代何にもしていない人も何億人もいるけど、私は何かをしてないと落ち着かない性格でね。働き者だった先祖の遺伝子が濃すぎるのか、ただの精神疾患か……まぁそれはさておき、正確には何にも興味が持てなくて、何もしないこともできないからこの仕事をすることになったのさ」
「この仕事は年々人員が減少しています。理由はどうあれあなた様にこの仕事をしていただき心からの感謝を捧げます。それと、精神疾患の件ですが健康診断クラウドにアクセスしたところ特に異常は見当たらないようですが」
「遺伝子も精神疾患の話も一種の冗談だよ。君は頭が固いね」
「そうでしたか。では次の質問です。この仕事のいい点、悪い点をお聞かせください」
「いい点ねー、難しく考えないで黙々とできることかな、マニュアル通りにポチポチするだけだしね。悪い点は飽きることかな、ボタン押しているだけだからね。まぁAIの世界中の仕事が見られるから結構楽しいよ」
「では、ここからは具体的な仕事内容の改善点の質問に入っていきます」
………………
「今回の取材はとても良い収穫でした。あなた様に最大の感謝を。取材に対して後ほど質問がある場合はこの私のAI番号を提示の上、AI統括部宛にご質問ください。今回の取材の報償金は明日あなた様の電子通貨ウォレットに送金いたします」
ひととおりの質疑応答を終えた彼はお礼を述べ、帰り支度をしていた。
「そういえば、先程あなた様は趣味がないのを私どもと同じとおっしゃいましたが、実は私どもにも趣味があるのですよ」
「それはなんですか?」
「人類の観察です」
………………
さぁ今週の週刊人類誌の取材対象は人類最後の仕事をしている方々です。
人類最後の仕事 AIチェック。
彼らがなぜその仕事をしようと思ったのか、仕事に対してどう思っているのか聞いてみましょう。
冴えた頭で私はいつものように電脳端末の前にある椅子に座った。
さぁ仕事を始めよう。
「最初の質問かい?なんだ、朝食は取らないのかだって?」
「朝一じゃ食事が喉を通らないタチなんだ。お腹が空いたらそのうち食べるよ。」
私はいつも通りコーヒーで満たされたお腹に満足感を覚えながら、電脳端末のスイッチを押した。
ほぼ全ての仕事が人間からAIに代替されたこの時代、私はAIチェックの仕事をしている。
仕事内容は至極簡単。
AIの仕事にミスがないか監察するだけだ。
私はマニュアルに沿ってAIから送られて来た資料に評価のチェックをいれていく。
良い、良い、普通、すごく良い、良い、良い、良い……
正直「悪い」の評価など付けたことがない。
もはやAIは人間より優秀になってしまった。
時々この仕事もAIに請け負ってもらった方がいいのでは、という考えが頭を過ぎるがすぐにその考えが間違っていることに気づく。
AIに人間の仕事が代替される過程で、当初AIを信じきれなかった人間は「AIの仕事の最終チェックは人間が行わなければならない」という条項をAI原則に盛り込んだのだ。
今の時代の人間からすると、とても不合理な条項を作ってくれたものだな、と思うが当時はAIも未発達の部分があったようで仕方がなかったのかもしれない。
現在、法律自体は全てAIが制定してくれていて、時代に削ぐわないものは早々に改定される。しかし、AI条項だけはAI自ら改定できないのだ。
人間のお偉い方はこの古き良きAI条項を改定するのに及び腰だ。なぜ明らかに変えた方がいい条項すら改定しないのか私には詳しくはわからないが、きっと旧時代のフィクションにでも取り憑つかれているのだろう。下手なことをするとAIが反乱を起こすと。
あぁそんなことを考えていたらシアターが見たくなってきた。今日の夜はあの映画を見ようか。
そうなどうでもいいことを考えながら黙々と仕事をしていると彼が私に話しかけた。
「そろそろ休憩を挟まれてはいかがでしょうか?休憩の間にいろいろ質問させて下さい」
システムに作業中断の指示を出し、私は彼の話に耳を傾けた。
「では改めまして、この度は私どもの取材をお受けしていただきありがとうございます。今回はAIチェックのお仕事に従事してくださっている皆様に、お仕事についての諸事を聞くという内容になっております」
「まず初めに、昨今は全ての人類に等しく余裕を持って暮らせる資金が毎日支給されています。労働の義務がなくなった今ではほとんどの人類は、人類にしかできない自分の好きなことにその人生の大半を捧げます。家族を愛し、芸術を極め、スポーツに打ち込み、学問にのめり込む。あなたのように仕事をする人は稀少な存在となってしまった。なぜ、あなたは働くのですか?この人類最後の仕事で」
「たいそうな理由はないよ。私はあなたがさっき言った人間が人生を捧げるはずのものに興味が持てないだけなんだ」
「なぜ、興味が持てないのですか?」
「なんでだろうね。スポーツを多少齧ってみたけど、周りの皆んなが凄く上手でね。なんだか興味を持てなくなってどれもこれもすぐに辞めてしまったよ。学問もそうさ、殆どの学問はAIの方が優秀だ。それでも好き好んでAIと切磋琢磨したがる連中もいるが私には、共感できない。そこで殆どの人と同じように人間にしかできない哲学、宗教学、芸術学なども学んではみたがあまり興味をそそられなかったよ。最近できたあの学問なんだっけ?哲学か宗教の派生の人間幸福学だったか?あれもつまらなそうだよね。みんな人間にしかできないことに躍起になってしまって、元来あまりやる気がない私は疲れてしまったよ。趣味がないという点では私は君と同じだね。」
「なんにも興味が持てないから仕事を始められたということでしょうか?」
「そうだけど、そうじゃないんだ。今の時代何にもしていない人も何億人もいるけど、私は何かをしてないと落ち着かない性格でね。働き者だった先祖の遺伝子が濃すぎるのか、ただの精神疾患か……まぁそれはさておき、正確には何にも興味が持てなくて、何もしないこともできないからこの仕事をすることになったのさ」
「この仕事は年々人員が減少しています。理由はどうあれあなた様にこの仕事をしていただき心からの感謝を捧げます。それと、精神疾患の件ですが健康診断クラウドにアクセスしたところ特に異常は見当たらないようですが」
「遺伝子も精神疾患の話も一種の冗談だよ。君は頭が固いね」
「そうでしたか。では次の質問です。この仕事のいい点、悪い点をお聞かせください」
「いい点ねー、難しく考えないで黙々とできることかな、マニュアル通りにポチポチするだけだしね。悪い点は飽きることかな、ボタン押しているだけだからね。まぁAIの世界中の仕事が見られるから結構楽しいよ」
「では、ここからは具体的な仕事内容の改善点の質問に入っていきます」
………………
「今回の取材はとても良い収穫でした。あなた様に最大の感謝を。取材に対して後ほど質問がある場合はこの私のAI番号を提示の上、AI統括部宛にご質問ください。今回の取材の報償金は明日あなた様の電子通貨ウォレットに送金いたします」
ひととおりの質疑応答を終えた彼はお礼を述べ、帰り支度をしていた。
「そういえば、先程あなた様は趣味がないのを私どもと同じとおっしゃいましたが、実は私どもにも趣味があるのですよ」
「それはなんですか?」
「人類の観察です」
………………
さぁ今週の週刊人類誌の取材対象は人類最後の仕事をしている方々です。
人類最後の仕事 AIチェック。
彼らがなぜその仕事をしようと思ったのか、仕事に対してどう思っているのか聞いてみましょう。
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ハミット 不死身の仙人
マーク・キシロ
SF
どこかの辺境地に不死身の仙人が住んでいるという。
誰よりも美しく最強で、彼に会うと誰もが魅了されてしまうという仙人。
世紀末と言われた戦後の世界。
何故不死身になったのか、様々なミュータントの出現によって彼を巡る物語や壮絶な戦いが起き始める。
母親が亡くなり、ひとりになった少女は遺言を手掛かりに、その人に会いに行かねばならない。
出会い編
青春編
ハンター編
解明編
*明確な国名などはなく、近未来の擬似世界です。
*過激な表現もあるので、苦手な方はご注意下さい。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
ヒューマン動物園
夏野かろ
SF
近未来のこと。人類は戦争を繰り返した末に滅亡寸前となった。その時、宇宙からきたフェーレという名の種族が人類を見つけ、絶滅をさけるために保護することを決めた。
それからしばらく後。人類は専用施設であるヒューマン動物園の中で大々的に飼育され、いろいろありつつも平和な日々を送っていた。
この物語は、そこを訪れた宇宙人であるモサーベ氏が見聞きしたことをまとめたものである。
追伸:感想よろしくです。
キリストにAI開発してもらったら、月が地球に落ちてきた!?
月城 友麻
SF
キリストを見つけたので一緒にAIベンチャーを起業したら、クーデターに巻き込まれるわ、月が地球に落ちて来るわで人類滅亡の大ピンチ!?
現代に蘇ったキリストの放つ驚愕の力と、それに立ちふさがる愛くるしい赤ちゃん。
さらに、自衛隊を蹴散らす天空の城ラピ〇タの襲撃から地球を救うべく可愛い女子大生と江ノ島の洞窟に決死のダイブ!
楽しそうに次元を切り裂く赤ちゃんとの決戦の時は近い! 愛は地球を救えるか?
◇
AIの未来を科学的に追っていたら『人類の秘密』にたどり着いてしまった。なんと現実世界は異世界よりエキサイティングだった!?
東大工学博士の監修により科学的合理性を徹底的に追求し、人間を超えるAIを開発する手法と、それにより判明するであろう事実を精査する事でキリストの謎、人類の謎、愛の謎を解き明かした超問題作!
この物語はもはや娯楽ではない、予言の書なのだ。読み終わった時、現実世界を見る目は変わってしまうだろう。あなたの人生も大きく変貌を遂げる!?
Don't miss it! (お見逃しなく!)
あなたは衝撃のラストで本当の地球を知る。
※他サイトにも掲載中です
https://ncode.syosetu.com/n3979fw/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる