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第一章

第一章 第6話「声帯の魔障に関する記述」

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 僕とノア様は次の章を確認した・・・ そのページの表題は『人間族と魔族の交配』であった。
 僕はページをめくり読み始めた……。『人間族と魔族は交配可能か?』という題で書かれていた。内容はこうである、魔族は長きに渡る争いで人間族に害がある肌や体液を持ち始めた。しかし一部魔族は人間族の姿を模して人間世界に諜者するものもいる。そのものは人間族に害がある肌や体液を持たない。魔族には人間との交配が可能な者がわずかだがいる。

 その本を書いたアイナリンドという人物は、自身やエルフ族の医師で調べた内容を数百年掛け書き記したらしい。

 少し読み飛ばし、次のページをめくる”魔族の声”との表題
 『魔族は魔法詠唱時の声が人間族への攻撃心からか害があるように進化した。』『声帯に何かしらの魔障がある』
 その攻撃的な声色は声帯に何かしらの魔力が不随しているのではないか?という仮説を立てた。魔族の声はエルフにも不快である。その事からある実験を始めた……と記してある
『捕らえた下等の魔族の喉に直接幾つか対抗するであろう魔法を掛けて聴いても効果はなかった。』
 結局単純明快に言うと耳を塞ぐか、魔族の声が小さくなるまで遠くにいくというのがシンプルな答えなので、この研究はそこで打ち切られたらしい・・・
 著者アイナリンドは独りで幾つかの実験をしたが効果はなかった。その後著者は”魔族の声”に関して関心を失っていた
 125年後人間族の女と諜者であった魔族の男の交配により赤子が出来たが産まれて数日で亡くなったとの知らせを聞いた。
 赤子の死より人間族と魔族は交配出来た事実に着目し人間族の女に事情聴取する。女は魔族の男は出会って数日で愛し合っていたらしい。当初は男の声で頭痛や吐き気がしていたが数日でそういう状態は収まったとの事
 著者アイナリンドは新たな仮説を立てる。
 ①魔族の男が愛情により「求愛鳴き」する鳥のように声色が変化した。故に人間族に害がなくなった
 ②人間族と魔族は契りにより人間の耳の中の蝸牛に魔力が宿り、故に人間族の女に害がなくなった
 著者アイナリンドは125年前に行なった実験から②ではないかと推察する。
 以前魔族の体液をネズミで実験したが、ごく少量を与え続けると微妙ながら耐性を持つ個体は少数出る
 魔族と交配した女は”体液の交換”や”肉体的な契り”で人間の体内に魔族の体液が入った事により”自己耐性”と”抗体”が出来る。
 魔族自体への免疫が付きそれに付随するように声に耐性が出来たかも知れない 

 本の中で『人間と魔族との交配』と『魔族の声』の章はここで話は途切れていた

 僕とノア様は一旦その本に書かれている内容を読み終え、お互い顔を見合わせた。仮面の下でノア様は何か考えているようだ……。
 僕は少し考えた、前世で働いていた頃、よく上司に嫌がらせされストレスで偏頭痛になっていた。頭痛はストレスでも引き起こされる。魔族の声がストレスの要因であるならその魔族自体の体液を取り込み耐性を付ければ声による障害が消えるかもしれない。
 『しかし”体液の交換”とういう意味は……。』僕はその点で気後れしていた、ノア様はずっと俯いたままだ。
 無言の時間が続く……

 僕はノア様がずっと何か考えているように見えたので声をかけれなかった。暫くして彼女はメモを書き僕を見た……。”貴方の服を買いに行きましょう」”と書いてあった、司書に本を返した。
 僕たちは席を立ち部屋を出る、もう昼頃になっていた。大広間に出ると朝一番の時より人が多くなっていた。『またここに来て転生者に関する本を調べたい』そう思いながら図書館を後にした。
 風があるが晴天で少し日差しがキツい。この国では残暑の季節だそうが耐え難い程ではない。ノア様のフード付きマントはかなり暑そうに見えるが逆に日差しを避けるトーブやアバーヤのように気候に適してるのかな?と思ったがノア様は暑そうで萎えた感じだ。そういえばいつも出掛ける時は朝一か夕暮れ時だったか。
 僕たちはなるべく日陰の所を大通り沿いを2人並んで歩く……。暫くして僕たちは服屋に着いた。大きな看板がありすぐに分かった。中に入ると女性店員が出迎える、ノア様が店員にメモを渡す
 ”普段着一着、外着二着”
 少し待っていると店員さんが何着かの服を持ってくる。僕はこの異世界の一般的なものにした。
 外着はカーキ色の半袖と長袖のチュニックにブラウンの長ズボン、普段着は白いシャツにひざ下の薄いブリーチズ
 28000ギル
 衣服は少々値段がするようだ。ノア様が小切手で支払う。冒険者はギルドの銀行口座を持ち大きい金額は小切手支払いが多いと後でノア様から教わった。
 店を出て大通りを歩くそれから暫くして僕とノア様は街の中心にある噴水の近くのベンチで休んでいる。今日は朝から色々な事があった、初めてギルドに行き図書館、服を買ったりと。
 「あの……ノア様……」僕が声を掛ける。ノア様は僕を見た。そして沈黙・・・ 僕は暫くしてから、彼女に話し始める。
 「図書館のあの本の最後……。」
  ノア様は僕の話を遮るように立ち上がり仮面を少し上げて話す。「昼食にしましょう。」彼女の声を聴いてこめかみがピリつく。これ以上話すなという事か?
 昼食は大通りから外れたピザ屋さんみたいな店だった。そこから僕らは一度も話さなかった。昼食を終え店を出るとそのまま帰路に就いた。
 僕は彼女の後ろを歩き図書館での一件をもう一度考え始めた……。僕はどうすべきか。

 暑さも少し落ち着いてきた頃、家に着いた。
 ノア様は暑かったのだろうか?マントを脱ぎ仮面を外す、そしてテーブルに着きメモを書き始めた。そして僕に席に座るように促す。ノア様が渡してくれたそのメモにはこう書かれていた

 あの本に記述があった”体液の交換”を試してみます。

 ノア様は立ち上がって座っている僕の前に立つ、僕も立ち上がろうとするがそれを制止する。
 時が止まったかのように静寂と沈黙が続いた…。
 見上げた彼女の顔は赤面し目に少し涙を溜めている。そして僕の顔にゆっくりと近付いてくると、彼女の唇と僕の唇がそっと触れる。
 

 それは僕らの関係が”歪”になっていく始まりでもあった。
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