夫に飽きました

まさりすぐる

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秘薬

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 正直なところ半信半疑ではあったけれど、私は薬師の言いつけに従い、夫の飲み物に秘薬を1滴、また1滴と密かにたらして提供することをはじめた。
 あたたかなお茶に溶かし込むと、秘薬はえもいわれぬ不思議な香りをたちのぼらせる。

 もともと結婚前から私も夫も2人してお茶を好んでいたせいもあり、お茶の用意だけは侍女にまかせず私がれて給仕するのがメイブラント侯爵邸の暗黙のルールになっているので、その点はまあ都合が良かった。
 
 秘薬を溶かしたお茶をカップについで出すと、夫は特にいつもと変わらぬ機嫌の良さでそれをじっくり味わって飲み干し、軽く微笑んだ。味にそれほど変化はないはずだ。

「――いい香りだね。ひょっとして、茶葉でも変えたのかい?」

「……え、ええ、少し前かしら、母が届けてくれたの。たしか、ヒルマードの産ということだったわ。お口に合いまして?」

「ああ、今日のもウマかったよ。ありがとう」

 私は一瞬ギクリとしたが、夫に他意がなさそうなのを見て静かに息を吐く。

 彼に淡い笑顔を向けられても、出会った頃のようには私の胸はもうときめかないけれど、ひとまず事態はここから動いていくと考えてよいのだろうか。

 そんな日々が、数日続いた――。


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