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先輩、潜心します。
#3
しおりを挟む放課後は予定通り、研究会で公募用の小説を執筆していた。今回は少年の家主と大人の執事がメインの主従関係だ。まず親を亡くし、身寄りがなく、どん底を味わった主人公の元に完全無欠な執事が現れる。そして実は自分が名家の家主の隠し子だったことが明らかになり、紆余曲折を経て大貴族の青年から寵愛を受けるというシンデレラストーリーだ。
「よくある設定を余すことなく全力で利用してるね。こんなテンプレのような小説紅にしか書けないよ。さすが」
泉名による原稿チェックも済ませた。彼のお墨付きなら確実に最終候補は狙えるだろう。逸る心を押さえ、原稿用紙は大切に封筒に仕舞った。
何となく時計を見る。少しの間動かずにいると、隣にリョウがやってきて、真剣な顔で尋ねた。
「紅本先輩。三十路まで童貞を貫いたら何が起きるんですか?」
リョウの声は、この世界はあと何年後に滅亡するのか? という質問と同じレベルの深刻さを纏っていた。俺は先輩として、歳上として、彼の疑問に真っ向から立ち向かわなきゃいけない気がした。だから深く息を吸い、彼の質問に答える。
「爆発する」
「え、何が!?」
「何かが爆発する。それはお前かもしれないし、お前の大切な人かもしれない。男のアソコは時限爆弾なんだ。でも、もしかしたら起爆することなく、時間の経過と共に萎れて使い物にならなくなるかもしれない」
「…………!!」
失敗した。とんでもなく下劣なことを言ってしまった気がする。
帰り支度をしてる最中、泉名の冷ややかな視線を背中に感じた。リョウはしばらく放心してソファに倒れていた。
「あ! そうだ、紅。俺のお気に入りのTHE・処女祭り~寝取られ夜行列車で緊縛シリーズ~の一巻から十五巻がどこにもないんだ。もしかして紅が家に持って帰ってる?」
「あいにくそんなマニアックなシリーズは読まねえよ」
「えー、おかしいなぁ……皆に聞いても知らないって言うんだよね。まさか、誰かが勝手にここに入って持ち去ったとか」
泉名は険しい顔で考え込む。でもあんないかがわしい本を好んで持ち去るヘムタイはいないと思う。
「どうせすぐ出てくるよ。リョウも元気出せ。お前はまだ若いし、自制してれば股間は暴発しないから大丈夫だよ」
「そうでしょうか。それならいいんですけど……。あ、ちなみに紅本先輩。未早が教室で先輩のこと待ってましたよ」
「……おぉ」
そうそう、その為に俺は早く帰らねばならんのだ。
リョウがいても、未早はこの研究室に来たがらない。やっぱり依然BLに対しては拒否反応があるんだろう。それは仕方ない。
「先輩。何か未早のやつ、今日一日元気なくて。全然喋んなくて、別人みたいだったんです。もしできたら、そろっと何があったか聞いてやってもらえませんか?」
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