71 / 89
先輩、潜心します。
#2
しおりを挟む「あ! 皐月、おはよー!」
「おぉ、おはよう。こんな時間に会うなんて運が良いな」
澄んだ空気に包まれる朝の登校時。紅本がいつもより二本早い電車に乗ると、恋人の未早が笑顔で隣の車両にやってきた。
「行動を見透かされてるみたいで怖いな。お前、実は俺のスマホにGPSでも仕込んでんじゃないか?」
「ねぇ見て、スマホで見つけたんだけど駅の近くに美味しいハンバーガー食べれるところあるんだって。学校終わったら行こうよ」
「え? あぁ、いいよ。でも今日は研究会の集まりがあるから、ちょっとだけ待ってもらうことになるけど」
「あぁ……、分かった。じゃあ俺適当に時間潰してるね。あと、終わったら本屋に寄りたいな。それと……」
電車が停まる。出勤中のサラリーマン達が我先にと一斉に乗り込んできた。
「うん、うん……」
その間も未早は淀みなく喋り続ける。仕方ないので彼をドア付近の手すりに追いやり、俺はドアに片手をついてバランスを保った。
「あ、楽器屋にも行きたい!」
「オーケーオーケー、分かった。ちょっと、後で詳しく聞くから……今は勘弁して」
コーナーに差し掛かり、電車が揺れる度に後方の大人達の全体重がのしかかってくる。俺は俺で、バランスを崩して未早をぺしゃんこにしないよう必死だった。早い時間に乗った方が混雑することを学んだので、二度とこの時間の電車には乗らないだろう。俺はまたひとつ賢くなった。もうそれでいいじゃないか。
とても長い四つの駅を乗り越え、学校の最寄り駅に降り立った。自分だけでなく、後ろの大人達も支えていた手のひらは真っ赤になっている。
未早から遠ざかったところでヒィヒィ言って学校に着いた。
「皐月。あれ、放課後BL研究会があるんだっけ?」
「あぁ。お前も寄ってくか?」
「ううん……」
未早は首を横に振り、それから俺の手を見た。
「何かそっちの手だけ赤くない?」
「呪われてるんだ」
「うん……? 研究会が終わったら、連絡ちょうだい」
未早はまたいつものテンションで自分の教室へ向かった。何だろう。所々話が噛み合わなかった。いや、いつものことなんだけど、いつもより二割増で話が噛み合わなかった。何かあったんだろうか。
少し考えて、ひとつの可能性に思い至る。周りをよく確認したあとスマホを取り出した。
まさか、これのせい……!?
現在の俺の待ち受け画像。それは今度アニメ化するBL漫画の主人公と恋人が裸で抱き合っているものだった。俺が気付かない間に未早はこれを見たのかもしれない。そして彼には刺激が強過ぎて混乱を招いてしまったのかも……。
なんてことだ。またやってしまった。俺は先輩として、歳上として、できるだけスローリーに手ほどきするつもりだったのに。どうして現実はいつも上手くいかないんだろう。
0
お気に入りに追加
75
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
聖也と千尋の深い事情
フロイライン
BL
中学二年の奥田聖也と一条千尋はクラス替えで同じ組になる。
取り柄もなく凡庸な聖也と、イケメンで勉強もスポーツも出来て女子にモテモテの千尋という、まさに対照的な二人だったが、何故か気が合い、あっという間に仲良しになるが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる