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先輩、必死です。
#7
しおりを挟むよし。
鞄を汚してしまった事は最大のハプニング。申し訳ないけど、今となっては結果オーライだ。
後で下に降りて、未早の鞄を洗うため母さんが取り出した中身を確認する。その中に小説があれば回収し、何事もなかった様に中身を仕舞って未早に返す作戦でいこう。大丈夫、俺ならやれる。自分を信じろ。
「未早、突っ立ってないで座れよ」
「あ……じゃ、失礼します」
部屋の中央に置かれているテーブル。彼はその前の座布団に腰を下ろした。
「紅本先輩の家ってすごい大きいですね。お母さんも何ていうか上品で綺麗だし。大事に大事に育てられましたー、って感じが隠しきれてませんね」
「だっ……まぁ、親父が稼いでるからな。ひとりっ子だし、この部屋も広すぎるぐらいだよ」
次いで部屋の中を見回した。パソコンデスクと長いラック、ベッドに衣装ケース、大きな水槽、楽器……それだけ置いても、走り回れるだけの面積がある。
「ゲームもあるけど。鞄綺麗になるまで暇だったらやるか?」
「いや、大丈夫ですよ。代わりにあれ見てもいいですか?」
「ん?」
ゆっくり立ち上がって未早が向かったのは、過去出場した演奏会の写真が並べられてるテーブルだった。
「たくさんありますね。いいなぁー、このホールでもやったんだ」
「場数ならお前も他の一年生より多いだろ」
「そうでもないんです。俺は何もできなかったから」
「え?」
意味が分からなくて聞き返したけど、未早は黙って写真を見つめている。……何だか、その横顔はいつもの彼と少し違っていた。
「……俺、ちょっと鞄見てくるな。座って休んでろよ」
一応声を掛けると彼は頷いたので、そのまま部屋から出た。階段をゆっくり降りながら首を傾げる。
何だろう。
威勢がよくて、ちょっとからかったらすぐ倍返しにしてくるような奴なのに。見るからに元気がなかった。
「ごめん母さん、鞄どう?」
「えぇ、泥は何とか落ちたんだけどね。乾くのはもうちょっと待てるかしら? もう二十時だからできるだけ急ぐけど」
「ありがとう。未早にも伝えとくよ。……ところで鞄の中身はどこに置いた?」
「お願いね。中身は、リビングのテーブルの上よ」
猛ダッシュで向かった。未早の物と思われるペンケース、サイフ、ファイル……。みんな汚れてないから良かった。けど小説が……
無いナリ。
探しても探しても、俺が書いたBL本は見つからなかった。母さんにもう一度確認をとったけど、間違いなくここに全部置いたらしい。
ということはコレ、完全に徒労に終わった……。
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