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先輩、必死です。
#4
しおりを挟むこれ以上の快適を望んでいるわけじゃなくて、今の生活を壊されたくないだけだ。表では部活と勉学に打ち込み、裏でひっそり腐活動をする。住み分けをして誰かに迷惑をかけないよう気を配っている。卒業まであと少し、平穏な日々を送らせてほしいだけなんだ。
部活が無事に終わり後片付けをしていると、またしても未早がわざとらしい笑顔でやってきた。
「紅本先輩、お疲れ様でっす。このあと予定入ってたりしますか?」
「何。特にないけど」
「なら良かった。ちょっと付き合ってください」
「つ……っ」
まさか、また何かよからぬことを企んでるのか?
油断できない誘いに思わず後ずさる。すると彼は気まずそうに首を振った。
「あ、勘違いしないでください。付き合うって、ソッチの付き合うじゃありませんから……」
「わかってるよ!」
────本っ当に腹が立つ。
それなのに何かほっとけない気になるのは、何故なんだろう。
結局、俺は家に直帰せず、小雨が降るなか未早の予定に付き合うことにした。
「え。ラーメン?」
でも、本当に気が抜ける。
「はい。何か急にラーメン食べたくなっちゃって」
そう言う未早に連れてこられたのは、ここら辺じゃ有名なラーメン屋だった。
「先輩も合奏中にラーメン食べたくなること、よくあるでしょ?」
「ねーよ」
冷たく言い捨てると、彼は悲しそうに呟いた。
「そうですか……俺は塩か味噌か、麺は細目か太めか、トッピングは何にするかまで悩んでて……今日はずっと演奏に集中できませんでした」
本来なら平手打ちのひとつもかましたい所だけど、人前なんで大人しく空いてるカウンター席に座った。
「豚骨にしよー。太麺野菜増し増し。先輩は?」
「どうしようかなぁ……」
「初めてなら俺と同じのにしましょうよ。美味いですから」
未早がそう言うので、同じもので量は普通にした。その判断は正解だった。普通なのに尋常じゃない量が盛られてる。でも俺よりも未早の方がボリュームがあった。
「ええぇ……お前、それ食えんのかよ?」
「はい。練習で腹減ってますもん」
割り箸を割って、彼は食べ始める。体は細いのに、よくそんなん入るな。と心の中でツッコんで俺も食べた。味はめちゃくちゃ美味かった。
やっぱりラーメンってうまい……。
久しぶりに食べたら美味すぎて、スープまで飲み干してしまった。例えようのない満足感に思わず息をつく。そこでハッとした。
何で俺、こいつと仲良くメシ食ってんの?
できることなら全力で挫折を味わわせてやりたい、憎しみのあまり一度は自作で散々キャラ崩壊させた人間なのに。
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