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赤い追想
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しおりを挟む「そう考えたら悪いことばかりじゃない。本当に……」
壁に背を預けて、夕都は顔に貼ったシップをなぞる様にさわった。
「俊紀さん。俺の見方ちょっと変わったりした?」
「うん?」
「尚太から全部聴いたんだろ? 今回のことは、俺があいつを巻き込んだんだ。でも俺、俊紀さんにはずっと話せなくて」
それは夕都が俊紀に交際を迫る前からで、つい最近の話ではなかった。
それでも確実に、自らの傷を庇うように隠していた。
自分が可愛いから、と捉えられても仕方ない程に。
そしてそんな汚い心理を彼に知られてしまうことを、夕都は一番恐れていた。
「……見損なった?」
絞り出した声は弱々しく、相手に届いたかも分からない。しかし言葉より先に、その答えは夕都に返ってきた。
「……!」
全身を包む温もりと、唇に当たった感触。
あ。
忘れていた。この人はいつも───俺が不安になってる時、こうしてくれたんだっけ。
俊紀は優しく夕都の額にも口付けを残し、微笑んだ。
「仮に見損なっても、見限る理由にはならなかったな。大体そんなことでお前を嫌いになるほど……軽い気持ちで好きになったりしてない」
夕都の身体を更に引き寄せて、俊紀は甘く囁いた。
「お前がいなくなることの方がずっと、俺は怖かった。むしろ俺の方が、お前に捨てられんじゃないかって思うこともあった。未だにお互い知らないことばかりだし」
「捨てるって、そんな」
夕都は少し驚いたように彼の顔を見返した。
「目を離したらすぐに居なくなりそうだからさ、お前。
でも好きだよ。どんなに離れても、どんなに経っても……お前が好きだ」
「俊紀さん……」
もう泣かないって決めたのに。
気付いた時には、涙が溢れていた。
「夕都、泣いてんの?」
「うん。何でかな……って、俊紀さんも若干きてない?」
「だな。……また会えて嬉しいから……かもな」
夕都はただ、今の幸せを表現する術が見付からずに。俊紀もまた、そんな彼を大事に抱いて瞼を擦った。
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