それで、また会ってる

カクシゴト

９

何だ?
数秒目が合ったものの、先にそらしたのは向こうの方だった。
どうでもいいけど、見れば見るほどイケメンだと思った。別にだからどうという事もないけど……黒髪でも目鼻立ちがくっきりしているせいか、目立つタイプの美形だ。しかもよく見たら同じ制服、同じ学校の生徒。
こちらを見ていた様な気がするけど。気のせいだろう。その後は特に気にとめる事もなく最寄り駅で降りた。欠伸をこらえながら、気だるい学校へと。 


｢梁瀬! 起きろ!｣
｢いったい!!｣

一日は眠くなるほど長い。しかし怒声と共に硬い教材が頭上に落とされ、顔面を机に打ち付けた。
｢ってーなぁ、誰!?｣
｢誰じゃない、いつまで寝てんだ! もうとっくに授業終わってるぞ! 後ほら。この前のテスト｣
担任の男教師から採点済みのテストを受け取る。結果はなんと全問正解のパーフェクト。我ながら褒めてあげたいと思った。
｢最近ずっと休んでたから心配してたけど、見直したぞ。ちゃんと勉強はしてたんだな｣
｢えぇ。僕は人が見てない所で努力しますから｣
｢人が見てる所でも努力しろ。お前は実技はともかく、授業態度は全教科最低評価だぞ｣
｢気をつけます!｣
とにかく、これを見せれば真面目にやってるって俊紀さんにも証明できる。
プリントを鞄に仕舞い、一気に上機嫌になった。

｢ところで、大丈夫なのか?｣

釈然としない表情で見てくる先生に、首を傾げる。
｢大丈夫って、何が?｣
｢お前をよく思ってない連中が変な噂を流してる、みたいなことを他の生徒から聞いてな。……本当かどうか知りたくて｣
彼はまだ若く、教師歴が長いわけじゃない。だからなのか、今いる教師の中じゃ一番親近感を覚えた。
｢大丈夫です。今に始まったことじゃないし｣
｢じゃあやっぱり本当だったのか。誰がやってるのかは知ってるのか?｣
｢さぁ? じゃ、お先に失礼します!｣
夕都は彼の言葉を聞き流して教室から出た。

目立っちゃうんだよなぁ。……どこに行っても。

だけどやはり、どうでもいい。どうでもいいというか、考えたくもなかった。
だって本当に今に始まったことではなくて、それは物心ついたときから続いていることだから。
むしろ教師に頼むのは噂を流してる奴を咎めることじゃなくて、事を大きくしないこと。下手に刺激する行動を起こさないことだ。本当に、それだけで何割か生きやすいのに。