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【22】
#3
しおりを挟む酔いが回ってきたのか、わけもなく気分がいい。ソファに横たわり、空っぽになったグラスを眺めた。
その向こうに透けて見える小さな灯。
いつの間にか部屋の明かりは消え、水無月さんがアロマキャンドルを灯していた。その姿は中々絵になっているけど、蓮実さんが呆れた様子で笑った。
「ほんとにこういうの好きだな。変なところで乙女っぽい。もうおっさんなのに」
「雰囲気が出て良いだろ? 咲人君の卒業を祝う特別な日なんだし」
確かに、そう思うと悪くない。いつもなら蓮実さん側について突っ込むところを、「ありがとう」と言った。
「全然。でも、相変わらずお酒は弱いみたいだね」
不意に頬を撫でられ、くすぐったくて身を攀じる。意識はわりとはっきりしているけど、どうやら顔が真っ赤になってるらしい。
「社会人になったらもっと飲み会が増えるから、変な男についていかないよう気をつけるんだよ」
「ああ、ほんとほんと! 咲人君、しばらくは飲んでも二杯までだよ」
「ええ……」
完全に保護者目線だ。とっくに大人の枠には入ってるのに、そんなの彼らには関係ないらしい。
いつまでこんな状態が続くのか、考えたらちょっと楽しかったりする。
家を出る、という選択を進めてくれたのも二人だ。自分が育った家を完全悪にしたくはないけど、彼らのおかげで痛みを覚えることがなくなった。腕にうっすらと残る傷をさすりながら、ゆっくり身を起こす。
自惚れてるとしか思えないけど……俺はどうやら大事にされてるみたいだ。
「咲……んっ」
二人の襟を掴み、順番にキスをした。彼らは俺のものじゃないし、俺も彼らのものじゃない。それでも他人には引き裂けない絆がある。
いつまでこんなことができるのか、正直分からない。来年までかもしれないし、もしかしたら明日かもしれない。
でも、受け入れるに決まってる。今まで支えてきてもらった分、今度は俺が彼らを支えていきたいから。
「あっ、つ……」
服を全部脱ぎ捨てて、ソファの上でひとつになる。水無月さんは蓮実さんに、蓮実さんは俺の中に入ってくる。誰にも見せられない酷い状況。なのに、彼らと繋がっていることを誇りに思う。ずっとこのままでいたい。律動による快感も、ほんの少しの不安も、全てが愛おしい。
以前は大嫌いだった夜の時間が、彼らによって塗り替えられた。
「咲人……っ」
「咲人くん」
交互に名前を呼ばれると、段々輪郭がぼやけてくる。蓮実さんの方が高くて、水無月さんの方が低い声をしている。二人の声が重なると、心地よさに眠ってしまいそうになる。
架け橋とはちょっと違う。そんな大層なもんじゃない。俺は所詮まだ子どもで。
彼らの間で行ったり来たりするボールだ。転がされてるって思うと微妙だけど、世界一優しく扱われてる自信がある。
やっぱり、このポジションが好きだ。
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