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【22】
#2
しおりを挟む五年も経つと環境は随分変わる。
俺は大学へ進学したし、四月には保育士として就職する。
蓮実さんは本格的に水無月さんと同居を初め、幸せそうに過ごしている。俺にも毎週ちゃんと連絡してくるんだから本当にマメだ。
近況報告なんてしなくても、俺は俺で、家にいたくない日や二日酔いの日は水無月さんの家にしょっちゅう泊っていた。我ながら迷惑極まりないと思ったけど、そこはそれ、二人が優し過ぎるのがいけない。インターホンを押せば、いつも笑顔で抱き締めてくれるから。
俺は既に彼らの虜だ。
「俺の卒業祝いと~、蓮実さん達の記念日も一緒に祝おうと思って良い酒買ってきたよ」
「記念日って?」
「もう余裕で五年は付き合ってるのに、何もやってないんでしょ? 祝わなきゃ」
グラスを三つ用意して、二人に手渡す。今じゃ当たり前だけど、一緒にお酒が飲めるようになった時もすごく嬉しかったな。
子ども扱いはあまり変わらないけど、少しずつ大人になっている。いつか、彼らが認めてくれる立派な大人になりたい。まずは安定した生活を手に入れることが目標だ。
「せっかく咲人君が用意してくれたことだし……、蓮実も今日は飲もうか」
「そうだね。あんまり強くないけど、皆で乾杯しよう」
窓の外で街のネオンが輝く。何度見ても飽きない夜景を眺めながら、男三人で飲み明かした。
「でも意外だな。咲人君が保育士だなんて……正直一番選ばなそうな道じゃない?」
「水無月」
揶揄うように笑う水無月さんを、蓮実さんが窘める。そんなやり取りはいつものことなので、チーズを頬張りながらかぶりを振る。
「そだね。俺も大学に進むまでは有り得ないと思ってた。けど」
「けど?」
「大人と関わるより、子どもと関わりたいと思ったんだよね。特に小さい子って、近くにいる大人が全てでしょ。まだまだ理想には全然届かないけど、……いつか憧れてもらえるような大人になりたい」
大人を信じずに育ったからこそ、大人を恐れる子達の気持ちに寄り添えるんじゃないか。そう思い至ってから、必死に勉強した。机上の知識が現実でどれほど役に立つか分からないけど、原点だけは忘れずにいたい。
「それに……二人がいたから、誰かの為になる仕事がしたいって思えたんだ」
結局家はいつも息苦しかった。それでも腐らずにやってこれたのは蓮実と水無月のおかげだ。就職を機に水無月が一人暮らしを勧めてくれたおかげで、来週には職場近くのアパートに引っ越すことになる。
何ならここに住めば良いじゃないかと言われたけど、それはさすがに断った。二人の愛の巣に住むほどの勇気は俺にはないし……何も名前のある関係が欲しいわけじゃない。
好きな時にふらっと会いに行ける、今の関係が大好きだ。
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