Ball

七賀ごふん

文字の大きさ
上 下
9 / 12
【22】

#1

しおりを挟む

忙しい毎日は振り返ってみると一瞬だ。大きな出来事がないから思い出せることも全然なくて、ひどくだらけた生活を送っていたような気になる。でも他人が思うよりは頑張っている。……はずだと思いたい。

人生の分かれ道に差し掛かった時は、将来の不安もあって悩みに悩んだ。だからこそ、傍で支えてくれる人達の偉大さに改めて気付かされた。

「咲人、今日の夜空いてる? 皆で打ち上げ行こうって言ってるんだけど」
「あー……ごめん、今日は大事な用事があるんだ。明日の夜よろしく」

大学の卒業式、前日。明日も大きな飲み会があるので、やや急ぎながら帰り支度を済ませた。
今夜は他に行きたい場所がある。早くも感傷に浸っている友人達に手を合わせ、やや小走りで駅へ向かった。

高校の三年間より、大学の四年間の方が短かったかもしれない。
“彼ら”に出逢ってからの五年という月日は光のような速さで過ぎ去り、そして消滅した。次にくる五年もあっという間なのかもしれない。ちょっと戦々恐々しながら、新しい生活に胸を踊らす。

明日から環境が一新することは間違いない。学生という肩書きを捨て、本格的に社会人の仲間入りをする。
咲人はこの日をずっと前から待ちわびていた。自由になることが嬉しいし、それを一緒になって喜んでくれる人がいるから────尚さら嬉しい。

もう何回歩いたのか分からない並木道。広大な庭を抜け、マンションのエレベーターを目指す。心ばかり焦って転びそうになった。やばいやばい……落ち着け俺。

でも気持ちも足どりも弾んでしまう。やっと自分の力で生きられる。それを彼らに伝えることができるから。

「こんばんは!」

インターホンを一回押しただけでドアの鍵が開いた。セキュリティしっかりしよう、と突っ込みたくなるけど、こんな時間にやってくるのは恐らく自分だけなのだろう。

「久しぶり、咲人」
「咲人君、お疲れ様!」

玄関先で朗らかにほほ笑むのは、部屋着姿の水無月と蓮実だ。昔と何ら変わらず、遊びに来る咲人を笑顔で出迎えてくれる。
高校生の時からずっと、この二人とは不思議な関係を続けていた。友人でもなく、恋人でもない。かと言って家族か、と言われると少し気まずい。言葉では表わせられない絆で結ばれている。

「俺明日で大学卒業するんだ。言ったっけ」
「それは……言ってないね。おめでとう!」

蓮実の唇は若干震えていた。それを隠すかのように身を乗り出し、咲人を抱き締める。
「……ありがとう」
彼の背に手を回し、ぎゅっと抱き締め返す。もう少しこうしていたかったけど、水無月が「はいはい、そこまで」と手を叩いた。

「ご近所さんに見られたら大変だからね」

蓮実と顔を見合わせ、照れ隠しの為に咳払いした。仕草やタイミングもなにかと被ってしまい、最近は水無月から兄弟か親子かと呆れられている。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

目標、それは

mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。 今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?

しのぶ想いは夏夜にさざめく

叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。 玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。 世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう? その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。 『……一回しか言わないから、よく聞けよ』 世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。

僕は君になりたかった

15
BL
僕はあの人が好きな君に、なりたかった。 一応完結済み。 根暗な子がもだもだしてるだけです。

幸せな復讐

志生帆 海
BL
お前の結婚式前夜……僕たちは最後の儀式のように身体を重ねた。 明日から別々の人生を歩むことを受け入れたのは、僕の方だった。 だから最後に一生忘れない程、激しく深く抱き合ったことを後悔していない。 でも僕はこれからどうやって生きて行けばいい。 君に捨てられた僕の恋の行方は…… それぞれの新生活を意識して書きました。 よろしくお願いします。 fujossyさんの新生活コンテスト応募作品の転載です。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

処理中です...