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【22】
#1
しおりを挟む忙しい毎日は振り返ってみると一瞬だ。大きな出来事がないから思い出せることも全然なくて、ひどくだらけた生活を送っていたような気になる。でも他人が思うよりは頑張っている。……はずだと思いたい。
人生の分かれ道に差し掛かった時は、将来の不安もあって悩みに悩んだ。だからこそ、傍で支えてくれる人達の偉大さに改めて気付かされた。
「咲人、今日の夜空いてる? 皆で打ち上げ行こうって言ってるんだけど」
「あー……ごめん、今日は大事な用事があるんだ。明日の夜よろしく」
大学の卒業式、前日。明日も大きな飲み会があるので、やや急ぎながら帰り支度を済ませた。
今夜は他に行きたい場所がある。早くも感傷に浸っている友人達に手を合わせ、やや小走りで駅へ向かった。
高校の三年間より、大学の四年間の方が短かったかもしれない。
“彼ら”に出逢ってからの五年という月日は光のような速さで過ぎ去り、そして消滅した。次にくる五年もあっという間なのかもしれない。ちょっと戦々恐々しながら、新しい生活に胸を踊らす。
明日から環境が一新することは間違いない。学生という肩書きを捨て、本格的に社会人の仲間入りをする。
咲人はこの日をずっと前から待ちわびていた。自由になることが嬉しいし、それを一緒になって喜んでくれる人がいるから────尚さら嬉しい。
もう何回歩いたのか分からない並木道。広大な庭を抜け、マンションのエレベーターを目指す。心ばかり焦って転びそうになった。やばいやばい……落ち着け俺。
でも気持ちも足どりも弾んでしまう。やっと自分の力で生きられる。それを彼らに伝えることができるから。
「こんばんは!」
インターホンを一回押しただけでドアの鍵が開いた。セキュリティしっかりしよう、と突っ込みたくなるけど、こんな時間にやってくるのは恐らく自分だけなのだろう。
「久しぶり、咲人」
「咲人君、お疲れ様!」
玄関先で朗らかにほほ笑むのは、部屋着姿の水無月と蓮実だ。昔と何ら変わらず、遊びに来る咲人を笑顔で出迎えてくれる。
高校生の時からずっと、この二人とは不思議な関係を続けていた。友人でもなく、恋人でもない。かと言って家族か、と言われると少し気まずい。言葉では表わせられない絆で結ばれている。
「俺明日で大学卒業するんだ。言ったっけ」
「それは……言ってないね。おめでとう!」
蓮実の唇は若干震えていた。それを隠すかのように身を乗り出し、咲人を抱き締める。
「……ありがとう」
彼の背に手を回し、ぎゅっと抱き締め返す。もう少しこうしていたかったけど、水無月が「はいはい、そこまで」と手を叩いた。
「ご近所さんに見られたら大変だからね」
蓮実と顔を見合わせ、照れ隠しの為に咳払いした。仕草やタイミングもなにかと被ってしまい、最近は水無月から兄弟か親子かと呆れられている。
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