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【17】
#8
しおりを挟むこんなにも心が満たされるセックスは初めてだ。
でもこれも、明日には全部なかったことになるのかな。
それはやっぱり寂しい……ような。
「咲人君」
両目を大きな掌で覆われる。視界が奪われた分、音がクリアに聞こえる。蓮見さんの息遣いも、触れてないはずの弾力も、全身で感じている。
「怖い時や寂しい時は言って。心配しなくても、すぐに駆けつける。それだけ近い距離にいるんだから」
「……っ」
なにか言わないといけない。けどその言葉は、波のような快感に攫われてしまった。
「んっ……あ、ああぁっ!」
水無月に奥を激しく突き上げられ、蓮見に前を強く吸われる。本当に、天にも昇るような気持ちだった。絶頂に達したその一瞬は、自分という人間がこの世界から乖離したような気がした。
快楽は徐々に鎮まり、夢のような時間も現実へ回帰する。けどまだ手足に力が入らず、二人の胸に身を委ねていた。
全然起きられる気がしない。どうしよう……。
「咲人君、大丈夫? もう今日はウチに泊まる?」
「いやいや、それは駄目だよ。俺が家まで送るから」
汗で前髪がはりついた額にキスされる。こそばゆいけど、心の中は満たされている。
それからしばらく眠らせてもらい、水無月さんが運転する車で家まで送ってもらった。
「咲人君、またね。俺達がいるんだからもう掲示板は使っちゃ駄目だよ。もし危ないことしたら……蓮見がさっき撮ったえっちな写真、悪用させてもらうからね」
はっきり「悪用」というところが恐ろしい。襟元を直しながら返事を考えていると、蓮見が間に入って制してくれた。
「冗談でもそういうことは言わない。咲人君、家に帰って……大丈夫かな?」
家に帰らないといけないと分かっていても、蓮見は最後まで咲人を引き止めていた。その理由は容易に想像できるから、あえて明るい笑顔で答える。
「昔は弱かったから、毎日親父に殴られてた。でも、今は大丈夫だよ」
家の鍵を取り出して、静かにドアを開ける。
「二人がたまに会ってくれるなら平気」
「そうか。じゃあ問題ない」
蓮見さんが答える前に水無月さんが即答した。何か嬉しくって、笑いながら頷く。
恥ずかしい写真を握られてることは笑えないけど、実のところ安心してる自分がいる。
今は縛り付けて、離さないでほしい。初めて全ての体重を預けることができた人達だから。
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