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七賀ごふん

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【17】

#5

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毎晩、隣の部屋な青年といけないことをしている。

彼が嫌がって抵抗する時は写真を盾に組み伏せた。抵抗と言っても子どもが手足をじたばたさせるようなもので、簡単に抑え込める。殴りかかってくることはないし、不安なんて一ミリもなかった。

本当に優しい。逆によくこれまで危険な目に合わなかったなと感心する。

咲人は自分のズボンを下ろし、彼の性器を後ろの入口に当てた。それまではしゅんとしていたのに、熱い肉に触れた瞬間生き物のような反応を見せた。
男の身体ってこんなに感度良かったっけ。入れてもないのにイッてしまいそうになる。
息することも忘れ、腰を沈めた。
「んっ……蓮実、さん……蓮実さん、蓮実さんっ」
「……っ」
ずぶずぶと、彼が中に入ってくる。その間だけは満たされる。でも終わった後の失望感は、始める前より酷かった。

中に彼の熱を感じて、気が抜けて眠ってしまうことも何度かあった。目が覚めると大抵ベッドに寝かされていて、後処理まで済んでいた。腹に飛び地っていた液体も綺麗に拭き取られている。

どうしてこんなことをするの。と訊かれた時より、本当は何がしたいの? と訊かれた時の方が動揺した。何も答えられずに立ち去る自分を、彼はどう感じただろう。惨めだと思ったのか。やっぱり優しいから、同情してくれたんだろうか。

俺だって自分が何が欲しいのか分からない。ただ金じゃないことは確かだ。今は金をもらうより、誰かと一緒にいたい。喋っていたいし、触ってもらいたい。

ひとりが嫌なんだ。怖くて怖くて仕方ない。 

でもそれを誰にも言えない。


「可愛い子が落ちてる」


蓮実さんと関係を持ち始めてから三週間が経った頃。結局飢えに耐えられず、深夜に掲示板で出会った男と待ち合わせていた。公園のベンチに倒れて夜空を見上げる。あと三分待って来なかったら帰ろうと思っていたけど、その男は微笑を浮かべながら現れた。上等なコートを羽織って、見るからにできるサラリーマンっぽい。
男でも女でも相手なんて困ってなさそうなのに、素性の知れない高校生と遊ぶのはどういう心境からなのか。
「ホテルの方が安心かな? それとも、俺の家に来る?」
直接そんなことを言われたのは初めてだった。こんな風に顔を合わせてる時点で大事件だけど、他人の家に上がるリスクはさらに大きい。何かあったとき、誰にも助けを呼べない。
行くべきではない……そう思うのに、何だか全てがどうでもよくなってる。蓮実さんはあれから全然口をきいてくれないし(当たり前か)、他のもので埋め合わせないとやってられない。

もういいか。

男の車に乗って、連れられたのは高層マンションの十二階だった。シャワーを浴びて、特に言葉も交わさずベッドに流れ込んだ。
余計なことは言わない方が良い。そう思うのは、彼の圧倒的な存在感と、男でも見蕩れてしまう美貌故だった。

彼は水那月(みなづき)と名乗った。
金もある、顔もいい、セックスも上手い。持ってる奴は何でも持ってるんだと言われてるみたいだった。不公平な世界だ。
しきりに不敵な笑みを浮かべるのに、不思議と嫌な感じはしない。だから彼と連絡先を交換した。
名前以外何も知らない彼との逢瀬も、早くも三回目に突入した。

「ふあああっ……! あっ、そこ、や……っ」

終わった翌日は立てないぐらい、骨まで溶かされる。今日も何回意識が飛んだか分からなかった。甘いキスも抱擁も、金よりずっと価値のあるものに思えた。
事後、いつものようにシーツに沈んでいた。水無月はこちらを覗き込んできた。

「初めて会った時から思ってたんだけど、これ痛くないの?」

何年も前の痣を指で撫でられる。背中や太腿、父に傷つけられた痕。皮膚が抉れたり、変色した部分は全然変わらない。
「痛くないよ」
深い眠りにつくように瞼を伏せる。
「色々麻痺しちゃってんのかも。今は殴られても全然痛くない」
仰向けに寝かされたまま、脚を大きく開かされる。長くてしなやかな指が内腿を這う。
「わかるよ」
これから与えられる快感に身震いする。そんな咲人とは対照的に、水無月は静かに息をついた。

「身体より、心の痛みの方がずっと手に負えないもんね」




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