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七賀ごふん

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【17】

#3

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翌日の深夜零時。

金曜の“彼”は大体この時間に帰ってくると、長年の経験から知っている。昨日はさらに遅かったかは、いわゆるイレギュラーな日に当たったんだろう。

自分にとっても、……彼にとっても。

「蓮実さん。どーも」
「咲人君。こんばんは、久しぶりだね」

もう何年もお隣さんとして付き合いがある、穏やかな男性。一人暮らしでサラリーマンの蓮実はすみさん。

自分が小学生の頃はお菓子やお土産をもらうこともよくあった。中学生になると付き合いは段々薄れ、顔を合わせることは少なくなった。上の階に住むおばちゃんから聞くと、「あの年頃はあんまり話しかけたら嫌われちゃうから……」と零していたらしい。

別に気にしなくていいのに。彼に限らず、大人は皆平等に嫌いなんだから。

「どうしたの、こんな時間に」
「親父に飲み物買ってこいって言われて」

嘘だけど、財布を見せて暗く微笑む。すると優しい彼はすぐに飛びついてくれた。
「危ないから駄目だよ。それなら俺が買ってくるから……ちょっと家で待ってて!」
彼は自分の家の鍵を開けてドアを開いた。
「でも……」
「大丈夫。すぐに戻るからね」
彼はそれだけ言い残すと、すぐに階段を降りていってしまった。

咲人の父親の気性が荒いことは、近隣の住民も知っている。しかしそれ以上踏み込む者は誰もいない。殴られたり蹴られたりするのは顔ではなく手足などの見えない部分だし、咲人が発信しない限りは虐待騒ぎになどならないだろう。まだ幼い頃に児相の職員が訪問に来たこともあったが、一回のみだった。父に言われた通り「毎日楽しい」と答えたら、それだけで納得したようだった。

大人は子どもを馬鹿にするくせ、子どもの嘘に簡単に騙される。
そんな中、蓮実は変わったタイプだ。家が隣というだけの高校生を家に入れたりして……もし俺が金目当ての不良だったらどうするんだ?

まぁ、金目当てのクズ野郎なんだけど。

「お待たせ。これでいいかな」

戻ってきた蓮実は、両脇にペットボトルを何本も抱えていた。時間からしてコンビニまで行ってくれただろうに、アルコールはない。気を利かせてくれたんだろうか。
「……ありがとう、蓮実さん」
逆に心配になる。思わずどうしてそこまでしてくれるのか訊きそうになったけど、話が長くなるのも怖くて黙っておいた。

「ううん。それより家は大丈夫?」

ふと、頬を撫でられた。ピリッとした痛みが流れて距離をとってしまう。
これは父親ではなく、この前遊んだ男に戯れで叩かれたものだ。けど蓮実は複雑そうに目を細めた。



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