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撮影
#3
しおりを挟む東京から片道二時間。普段は温泉街として有名な山合の町は、秋になると紅葉目的の観光客で溢れかえる。
「先生、運転おつかれさま」
ペットボトルのお茶を差し出すと、先生は笑った。
「俺も免許とったし、疲れたら運転代わるのに」
「気持ちだけ受け取っとくよ。でもまだ死ぬ予定ないからな」
「俺もないよ」
以前先生の車で練習させてもらったことがあるが、とにかく急発進と急ブレーキが多いと怒られた。最終的に具合が悪くなったとかで、先生は青い顔で助手席から降りた。
「まだ昼前だから、何かすごく充実してる感じする!」
「スマホ見てたらあっという間だもんな?」
「あ! 先生、俺温泉饅頭食いたい!」
「聞いてないな……」
土曜日のわりには、人が少ないかもしれない。普段と違う昔ながらの町並みはテンションが上がった。
「先生は酒饅頭でしょっ?」
お店の人にお金を渡し、蒸かし立ての饅頭を二つ受け取る。
振り返って白い酒饅頭を差し出すと、先生は目を細めた。
「ありがと」
「どういたしまして」
ほぼ同時に頬張る。温かい饅頭は美味いに決まっていて、思わず高い声がもれた。
「うまー」
「うん、美味しい」
その後も食べ歩きできるものを探し、昼ごはんはいらないぐらい食べた。
「はぁ、最高。どれもめっちゃ美味かった。もう帰る?」
「秋、俺達がここに来た理由は?」
「何だっけ。あ、紅葉見に来たんだ」
いかんいかん。目的を見失うところだった。先生に平謝りして気持ちを奮い立たせる。
道沿いにある地図を見て、紅葉が素晴らしいと言われている公園の位置を確認した。結構勾配のある長い坂を上る必要があるみたいだ。
「この上の駐車場に車停めれば良かったんじゃ……」
「若いんだから運動しろ。さっき食べたもんも消化しないと」
「消化したくない! あいつらは俺の中で永遠に生きるんだ」
「分かったから行くぞ」
最近、先生のリアクションがさらに雑になった気がする。かく言う俺は以前よりふざけることが多くなった。多分クソ真面目な内容ばかり勉強してるからその反動が現れてしまってるんだろう。我ながら憐れみを感じる。
長い坂をひいひい言いながら上がる。腹立つことに先生はさっさと先に行ってしまった為、最後だけ走って上がった。
「おぉ……!」
下にいた時から山の稜線が色づいているのは分かったが、近付いたら圧巻そのものだった。赤と黄色が頭上を覆い、見事なコントラストを生み出している。
「すごい……」
「だな」
スマホで何枚か撮影したけど、とにかく見蕩れて、首が痛いぐらい上向いていた。ふと横を見ると、先生も満足そうに木々を見上げていた。
その横顔もいつまでも見ていたいと思った。綺麗で、温かくて、宝箱に仕舞っておきたいぐらい。
自然を慈しむことができるんだから、風情とかも分かるんだろうな。まぁ、俺ももう大人だから分かるけど。
周りを通り過ぎる夫婦や家族連れを横目に、恋人がこちらに気付くのを待つ。
少しして、ようやく目が合った。
「どうした?」
「綺麗だなって思って」
「あぁ。しっかり色付いてて綺麗だな」
「いや、先生が」
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