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明察
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しおりを挟む真っ暗なエンドロールが流れた後、天井が明滅する。
ああ。終わったのか。
ある日の夜、二人は久しぶりに同じ時間を過ごしていた。
「うーん、やっぱり続編も面白かったな。ずっと座ってたから腰が痛いけど」
二つのフロアが吹き抜けた映画館で、中央のホールを見下ろす。下ではたくさんの人が行き交い、休憩したりパンフレットを眺めたりしている。高い建物の為、窓から見える夜景は中々綺麗だ。
空になった紙コップをゴミ箱に入れ、矢代は軽く身体を伸ばしながら呟いた。
「先生さ……途中から寝てたでしょ?」
そんな彼に冷めた眼差しを向ける少年。
以前よりほんの少し大人びた秋だ。今は受験を目前に控える三年生で、今日は束の間の息抜きとなる。
「寝てないよ」
「頭がぐらぐら揺れてましたけど」
「なるほど。そんなことに気がつくなんて、お前もそんなに映画に集中してなかったんだな」
言って、後から失言だと気付いた。眼前に降りかかるパンフレットを受け止め、矢代は彼を宥める方向に転換する。
「悪かったよ、許してくれ。……久しぶりに会ったんだし」
人気の少ない一階のテラスへ出て、二人は空いたベンチに腰掛けた。
「怒ってないよ。でも先生が去年見たいって言って来た映画でしょ? 寝たら損じゃん」
「いーよ、どっかで配信されたらまた見るから。それより」
矢代は、秋の髪にそっと触れる。
「お前に会えたことの方がずっと嬉しい」
矢代はそのまま寄りかかって、秋の肩に頭を乗せた。もう人目が気にならないのか、結構大胆なことをしてくる。
「もう……」
そうやって人を嬉しくさせて、何がしたいんだか。
「前は毎日だって会えたから、ちょっとでも会えない日が続くと悲しいよ」
「でも、先生も近い所に異動できて良かったじゃん。随分会いやすくなったよ」
周りに誰も居ないことを確認して、秋は矢代の頭に手を置く。そして静かに頷いた。
秋が引っ越した先と、矢代が異動した学校は奇跡的にも近い場所にあった。
「ま~、だからさ。元気出して」
「そーだな。お前も今年は受験だし、どうせそんな会えないか」
「どうせって言い方はないだろ! 極力会えるようにするよ!」
頬を膨らまし、そっぽを向いた秋に、矢代は笑って頭を起こした。
「ごめん。気使ってくれてありがとな」
無邪気な笑顔を向けられると、秋は何も言えない。付き合ってから……いや、学校を離れてから、矢代は常に優しい。
加えて、かなり甘えるようになった。普段なかなか会えないから仕方がないのかもしれないけど、以前の鬼畜な彼を思い返すと逆に怖いというのも本音だ。
このデレすら、なにか意図があるんじゃないかと探ってしまう。
って思うあたり、俺は本当に調教されたなぁ。
「……先生は新しい学校どう? もう慣れた?」
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