シャッターを切るときは

七賀ごふん

文字の大きさ
上 下
151 / 179
明察

10

しおりを挟む



真っ暗なエンドロールが流れた後、天井が明滅する。
ああ。終わったのか。
ある日の夜、二人は久しぶりに同じ時間を過ごしていた。

「うーん、やっぱり続編も面白かったな。ずっと座ってたから腰が痛いけど」
二つのフロアが吹き抜けた映画館で、中央のホールを見下ろす。下ではたくさんの人が行き交い、休憩したりパンフレットを眺めたりしている。高い建物の為、窓から見える夜景は中々綺麗だ。

空になった紙コップをゴミ箱に入れ、矢代は軽く身体を伸ばしながら呟いた。

「先生さ……途中から寝てたでしょ?」

そんな彼に冷めた眼差しを向ける少年。
以前よりほんの少し大人びた秋だ。今は受験を目前に控える三年生で、今日は束の間の息抜きとなる。
「寝てないよ」
「頭がぐらぐら揺れてましたけど」
「なるほど。そんなことに気がつくなんて、お前もそんなに映画に集中してなかったんだな」
言って、後から失言だと気付いた。眼前に降りかかるパンフレットを受け止め、矢代は彼を宥める方向に転換する。

「悪かったよ、許してくれ。……久しぶりに会ったんだし」

人気の少ない一階のテラスへ出て、二人は空いたベンチに腰掛けた。
「怒ってないよ。でも先生が去年見たいって言って来た映画でしょ? 寝たら損じゃん」
「いーよ、どっかで配信されたらまた見るから。それより」
矢代は、秋の髪にそっと触れる。

「お前に会えたことの方がずっと嬉しい」

矢代はそのまま寄りかかって、秋の肩に頭を乗せた。もう人目が気にならないのか、結構大胆なことをしてくる。
「もう……」
そうやって人を嬉しくさせて、何がしたいんだか。
「前は毎日だって会えたから、ちょっとでも会えない日が続くと悲しいよ」
「でも、先生も近い所に異動できて良かったじゃん。随分会いやすくなったよ」
周りに誰も居ないことを確認して、秋は矢代の頭に手を置く。そして静かに頷いた。
秋が引っ越した先と、矢代が異動した学校は奇跡的にも近い場所にあった。

「ま~、だからさ。元気出して」
「そーだな。お前も今年は受験だし、どうせそんな会えないか」
「どうせって言い方はないだろ! 極力会えるようにするよ!」

頬を膨らまし、そっぽを向いた秋に、矢代は笑って頭を起こした。
「ごめん。気使ってくれてありがとな」
無邪気な笑顔を向けられると、秋は何も言えない。付き合ってから……いや、学校を離れてから、矢代は常に優しい。
加えて、かなり甘えるようになった。普段なかなか会えないから仕方がないのかもしれないけど、以前の鬼畜な彼を思い返すと逆に怖いというのも本音だ。
このデレすら、なにか意図があるんじゃないかと探ってしまう。

って思うあたり、俺は本当に調教されたなぁ。

「……先生は新しい学校どう? もう慣れた?」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

処理中です...