シャッターを切るときは

七賀ごふん

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明察

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ついつい意地の悪い質問をしてみた。
当たり前。わかりきったこと訊くなよ、と矢代は苦笑しながら近くのベンチに座る。
そしてシャツの襟を少しはだけた。

「でも、俺もどのみちお前が三年になるまでの付き合いだったからな。……それが半年早まっただけだ」
「え?」
「俺も来年、異動なんだよ」

落ち着いて話す矢代に、秋は険しい顔で詰め寄った。

「何それ!? 何でそんな大事なこと黙ってたんだよ!!」
「隠してたわけじゃないよ。言わなくたって、そろそろ節目だからバレてると思ったし」
「いやいや、全っ然わからないから!」

脱力した様子で、秋は隣に腰掛けた。
「だから、盗撮の課題は今年までって言ったんだ。俺は、来年はこの学校からいなくなるから」
「そういうことか。先生はやっぱ、最後まで期待を裏切らない外道だね」
「あぁ、……本当に。これからお前は、もっと良い写真を撮れよ」
秋は自分のスマホを取り出し、少し擦る。乱暴に扱ってたわけじゃないが、昔よりは傷が増えた。
「そうか。先生もいなくなるんだ」
「あぁ。でもしょうがない。遅かれ早かれ、絶対いつかは学校を出て行くんだ。生徒も、教師も」
矢代は穏やかな表情で言った。ちっとも未練はなさそうに、割り切った様子で。寂寥感に浸っている自分とは正反対だと秋はため息はつく。

「さすが大人は切り替え早いね」
「大人は関係ないかなー。俺が、思い残すことがないよう存分に楽しんでるからな。これから先、どこに行ってもそうしていくつもりだ」
「……見習うよ、そのポジティブ精神」

秋は引越しは勿論、転校も何回も経験がある。しかし決して慣れたりはしなかった。知らない場所へ行き、知らない人達に出会う。それだけで結構疲れる。
おまけに来年は三年生。不安を抱えながらの受験だから尚さら。

……でも俯いてばかりじゃいられない。過去の事を、ちゃんと精算しなきゃ。捨てるんじゃなく、目を逸らすんでもなく、受け入れた上で前へ進もう。

俺達は人に言えないことをした。許されないことを、たくさん……だから、それによって起きたことは誰にも言わず、全て背負っていく。
冷たいスマホを握りしめて、オレンジ色の水面に目をやった。




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