シャッターを切るときは

七賀ごふん

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明察

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「はー、しょうがない。夏休みももう少しだし、頑張るか」

秋は友人達と一緒に、外へ続く渡り廊下を歩いた。眩しい太陽と青空を窓越しに眺めながら、ゆっくりと視線を前に移す。
「どうせやるなら勝とうぜ!」
「おー、そだな」
雑談を交わしながら先に進む。そのとき視界に入った、見覚えのある影。

「辻村ー、帰りどっか寄ってかね?」
「あぁ、いいよ」
 
心臓がどくんと跳ねた。秋が目を見張る先には、友人と楽しそうに話している辻村がいる。前方から歩いてきた彼もこちらに気付いたようだ。
数秒、歩きながら目が合う。離そうにも離せない。けど、隣にいた友人に肩を押されて目線を変える。

「秋、お前今度の体育水着忘れてくんなよ。プールだから皆でシンクロナイズドスイミングやるんだ」
「……できないし、そんなんやる前に怒られるって」

あ。
呆れながら話してる間に、彼は通り過ぎてしまった。
少しだけ振り返ってみたけど、彼は友人と楽しげに喋っていた。
何事もなかったみたいに、……なかったことにしている彼は。
俺よりずっと凄い精神構造をしていて、おかしくて、色々強いのかもしれない。

心臓を握り潰されそうだった。今でも言いたいことはたくさんあるし、何なら殴り倒してやりたい気持ちもある。
でもそれ以上に、もう関わりたくないという想いが強い。

どんなに仲良くなっても、人はここまですれ違うことができるんだな。良い教訓になった。

「早く金曜日にならないかなぁ。夏休み入ったら遊ぼうぜ」
「秋、お前もだからな。引越しの準備があるとしても、ドタキャンは許さん」
「はいはい。どこでも行くよ」

念を押してくる友人達に同意して、秋は天井をあおいだ。
人は怖い。簡単に裏切ることもある。
───でも完全に独りぼっちなんてのは、自分の決めつけに過ぎないのかもしれない。
今だって、気付けば周りに誰かがいる。それだけでも、案外悪くない学校だった。
捜そうとしなかっただけで、味方はずっといたんだ。


「まさか、このタイミングで転校しなきゃならないとは思わなかった」


放課後、夕日に染まったプールサイドで秋は呟いた。
「逃げたみたいに思われるね。辻村とかにはきっと……くっそー、それがちょっと癪だな」
秋は裾をまくって、裸足になる。脚だけプールに浸かって天を仰いだ。
その後ろで、矢代が暑そうに呟く。

「急だったもんな。仕方ないだろ。世の中には意外と、有り得ない偶然が重なるもんだ」
「……うん」

本当に、急な話。父親の転勤に伴って、秋は他県に引っ越すことになった。知らない土地へ移ることは慣れているが、それでも今回抱えている不安は別物だ。
「夏休み中に引っ越して……二学期は新しい学校か。向こうの授業がどれくらい進んでるか分からないから、夏休み中もちゃんと勉強しろよ」
「わかってるよ」
いちいち親みたいだな。まぁ、大人の言うことは黙って聞いとくべきなのかもしれないけど。そういや、仮にも教育者だし。

環境の変化のプロのはずだ。

「先生、俺がいなくなったら寂しい?」




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