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明察

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いつもの可愛らしい声とは百八十度違う怒声。ようやく、彼がバンドのボーカルをやってるということに心から納得できた。
「あんな酷いことされて、風間君は優しすぎるよ。こういう奴は調子に乗るから気をつけた方がいい」
苅谷は須佐を踏みつけて先へ歩く。
少し気の毒に思ったので、秋は倒れた須佐に会釈して通り過ぎた。内心では合掌していた。

「苅谷さん、会長とより戻したんですか」
「んなわけないだろ! あんな浮気野郎もうごめんだよ!」
昇降口に向かいながら、苅谷はポケットに入れていた眼鏡を掛ける。

「一万歩引いて、他人に戻っただけ」
「そうなんだ……」

どこかホッとして口元が緩んだ。
「あんな最低な事しといて、話すのも正直嫌なぐらいだよ。でも……」
「でも?」
「……いや、ごめん。君のことで泣きつかれた時は、大目に見ちゃったのかも」
少しだけ顔を赤くして額を押さえる苅谷に、秋は頷いた。

「……それでいいんですよ」

そうだ。本当に良かった。
関係を戻しても良い気はするけど、そこからはもう二人だけの問題。
会長と辻村の間では、どこまで話が進んでいたのか分からないけど……とにかく、これ以上は関わらないのが一番だ。
「噂の方は全部嘘だって、あいつに回収させてる。自分の勘違いってことで。これだけは絶対させないとね」
「ありがとうございます」
下駄箱につき、苅谷は軽く手を振った。

「じゃあ、またね。本当にごめん」
「いえ、こちらこそ……本当にありがとうございます。迷惑かけてすいませんでした」

ぱったりと別れて、秋は自分の教室へ向かう。
そこには、いつもの風景。
「お、来たよ風間」
「遅いんだよ、もうちょっとで遅刻だぞ」
「わかってるって」
クラスメイトに苦笑しながら席につく。
「今日二組とバレー対決やるんだっけ。だるいなぁ」
季節の変わり目。
窓から入ってくる風を受けながら、どこまでも広く澄み渡っている青空を見上げた。

「お、珍しく全員席についてるな」
「あ、矢代先生。今日の午後の体育めっちゃ疲れるから、午前の授業は補習にしましょうよ!」

教室に入ってきた矢代は、生徒の言葉を聞いてニッコリ微笑んだ。 
「良かったな、丁度そうしようと思ってたんだ」
「マジで!? おいお前ら聞いた!?」
「やったー!! 先生神! 大好き!」
クラス中に歓声が上がる。
「ただし、小テストの後な」
直後に響きわたる、絶望の声。いつもすぎる日常風景に、秋は静かに笑った。





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