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明察
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しおりを挟む平和だ。いつもの通学路を、いつもの様に歩く。
変わったのは……いや、変わるのはこの道を歩くのも後少しってことぐらいか。
「あ、風間先輩おはようございまーす」
数日が経って、周りは少し落ち着いた気がする。すれ違いざまに挨拶した一年に、秋はひらひらと手を振った。
目に見えるほど何かが変わったわけでもないけど、この景色はきっと最後まで変わらないんだろう。
「風間君」
「あ、苅谷先輩。おはようございます」
背後からの呼び掛けに振り返る。そこには苅谷と、一人の少年が立っていた。
「須佐……さん」
「……」
苅谷の斜め後ろで気まずそうに佇むのは、生徒会長の須佐だった。
学校に来ていたのは良かったが、何故ここに。一番接触しちゃいけないやつだろ!
秋は心底迷ったものの、苅谷に向かって引き攣った笑顔を浮かべる。
「お久しぶりです。元気そうですね」
「うん。朝、生徒会の用事があってね。どうしても外せないやつで……」
苅谷は珍しく言葉に迷いながらもごもごしていたが、やがて馬鹿馬鹿しくなったのか須佐を突き飛ばした。
「ほら、お前も早く言えって」
「痛っ」
秋と鼻先が触れそうなほど近い距離に躍り出てしまった為、須佐は慌てて一歩引いた。
何だろ。こわ……。
しかし逃げる様子はなく、咳払いする。マジで何なのかと待っていると、彼はゆっくり頭を下げた。
「今までのこと、本当にごめん。許してもらえるなんて思ってないけど……償いたいんだ。馬鹿な噂を広めたことや、……君に乱暴したこと全部」
二年に頭を下げている生徒会長に、周りを歩く生徒は皆不思議そうに見ていた。
「……」
それでも彼は頭を上げない。
そういえば、先週より近付いてくる奴が格段に減ったのは彼が手を回したからだろうか。
「いや、そんな。まぁ、あの時は大変でしたけど……」
謝られてるのに何か気まずい。しどろもどろに返してると、須佐は少し顔を上げ心配そうに尋ねた。
「あの日の後、誰かに何かされた?」
「え? ……い、いえ」
一瞬ドキッとしたが、秋は反射的に否定した。彼はこの数日休んでいたらしいから、辻村のしたことは何も知らないのかもしれない。
あれはあいつの独断だったんだろうか。
「風間君、許さなくていいよ。てゆうか……」
「?」
苅谷はヘッドホンを外す。
「謝る時は土下座しろっつっただろうが」
苅谷は声のトーンを落とし、低い姿勢を保っている須佐に強烈な蹴りを入れた。
「うあっ……痛そー……!」
通りすがりの誰かが言った。確かに見事な踵落としで……まともに食らった会長は地面に伏してしまった。
「苅谷さん……やり過ぎじゃ」
「いやいや、優しすぎるぐらいでしょ。君もやりな。今がチャンスだよ」
「お、俺は遠慮しときます」
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