シャッターを切るときは

七賀ごふん

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明察

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声だけじゃなく、手も震えだした。だが抑えようとしても止まらない。

「ごめんなさい……っ!」

気付けば涙が溢れて、謝罪の言葉を繰り返していた。
「いたっ!?」
ところが軽く額を小突かれ、わけが分からず顔を上げる。
「やっとこっち見たな」。そう言って、彼は優しく笑った。
想像していたよりずっと穏やかな顔で。

「一度も目合わせないから、さすがに嫌われたかな。って思ってた」
「な、何で……俺が先生を嫌うんだよ」

理由がない。そう思ったけど、彼は苦しそうに目を細めた。
「辛い時に助けてやれなかった」
また距離が縮まる。彼は屈んで、ベッドに手をついた。
「お前が謝る理由なんて何もないよ。俺がお前に謝らなきゃいけないんだ。こうなったのは全て俺が原因だから」
手を引かれて、彼の腕に抱き寄せられる。その温もりを感じただけで、また泣きそうになってしまった。
正直、これ以上に望むものなんてないんだって……痛感した。

「俺も、ずっと無理やりお前を抱いていた。だからお前を襲った奴らを怒る資格がない。どれだけ憎くても……俺が一番憎むべきは自分なんだ」

矢代は秋のぬれた目元を指で優しく撫でる。

「でも、もう誰にもこんな真似はさせない」

いつしか、彼も声が震えていた。それが何の感情からくるものなのか、秋には分からなかったが。
「お前は何も悪くないし、よく耐えたよ。最初から、ずっと……だから自分を責めるのはもうやめてくれ」
あれ、と思って注視する。
先生……泣いてた? 
間近で見てようやく気付いたけど、先生も少し目元が赤かった。触れて重なる手は熱が篭っている。
「ひとりで辛い思いをさせて、ごめんな。本当に……」
「……ううん」
秋は矢代の言葉を聞き届け、笑った。
「もう大丈夫。先生がいるから」
胸や喉が焼けるように熱い。それでも声を絞り出した。
「やっぱり、先生に見つけてもらって良かったな」
笑ってるのに、秋は泣いていた。

「いつも俺のこと見つけてくれて……ありがと」

こんなにたくさんの涙を流したのは初めてかもしれない。
頭が痛くなるほど泣き続けて……気付いたら陽は傾き、部屋は完全に夕暮色に染まっていた。




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