シャッターを切るときは

七賀ごふん

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推察

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辻村に犯されている間……本当は心の中でずっと、あの人の名前を呼んでいた。
口にしてしまったら大変なことになるから、唇を噛み締めて、必死に耐えたんだ。

でも結局泣いてしまった。あんな地獄の時間でも、意地悪なのに優しい、あの人の姿が脳裏にチラついて離れなくて。

嫌いな存在なら良かったのに。……大好きだから、余計に苦しかった。 

「秋!!」

あの時も、本当は僅かに聞こえていた声。
見られたくなかったけど、来てくれてちょっとだけ嬉しかった……なんて。そんなのおかしいか。

「矢代せんせ……」

記憶と交互して保健室に現れた二つの人影。
一人はやっぱり、矢代先生だった。慌てた感じだけど、どこかホッとしてる様子で。
その隣には、真っ青になった藤間先生が居た。
「あ。おつかれ~、広夢君……」
維は即座に秋から離れて、気まずそうに咳払いした。

「どこから見てたか分からないけど、勘違いしないでね。風間君をちょっと元気づけようと思っただけなんだ。それにはホラ、女の子のキスが一番」
「そんなこと簡単にするな! 大体お前は女じゃないだろ!!」

決して小さくない、藤間の怒声が部屋全体に響いた。
「あぁっ! ちょっと、ばらさないでよ!!」
対抗するように、維は立ち上がって藤間に詰め寄った。
一触即発の喧嘩を始めた二人の傍らで、秋は嫌な汗を流す。

「え……? 維さん、女じゃない、って……まさか」
「あぁ、違うの風間君、そんな殺傷力ある目で見ないで。ほら、広夢も否定してよ」
「無理。否定したらしたで、お前は男にキスしようとした浮気女ってことになるぞ。それよりは男にキスしようとした女装野郎の方が」

────事態が飲み込めない。
軽い目眩と頭痛がした。
マジか。こんなに綺麗な人が……。

「……ふぅん。男だったのか、君。なら少し手荒な真似をしても問題ないかな」

するとそれまで黙っていた矢代が、無表情のまま前に出た。
「そんな、私か弱い女子です! ねぇ広夢、私のこと守ってくれるよね?」
「う。……オーケー矢代、落ち着け。暴力だけはやめとこう。勿論俺も許せないからきつく叱っとくし、風間君にも謝らせるから」
藤間は間に入って矢代を宥めた。それに対し彼は腕を組んで溜息をつく。

「冗談だよ。でも今の秋にそういう真似はしてほしくなかったんだ。こんな状態で、これ以上怖がらせたくないから……」




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