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推察
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しおりを挟むそして今、目の前から歩いてくる。
「……」
ここで立ち止まる方が不自然な為、矢代は構わずに歩みを進めた。しかし何故か、彼に一歩近付くたび鼓動が速まる。
変だな。何に緊張してるんだか。
今や何の関係もない生徒に対して。……押し寄せる焦燥の理由も分からないまま、彼とすれ違った。
直後、背後に掛けられた言葉。
「矢代先生? そっちは行き止まりですよ」
足音がやんだ。つられて、こちらも足を止める。振り返ると案の定、辻村は立ち止まってこちらを見ていた。
ゾッとするほどの無表情で。
「あ、あぁ。……そうだな」
矢代は自分が進もうとしていた方向を一瞥した。そこは彼の言う通り行き止まりで、手前にトイレがあるだけだ。今は水道管が故障したせいで使用禁止になってるから、やはりこの先に行く必要はない。はずだけど。
────じゃあ何で彼は、そこから歩いて来た?
「おい、辻村……」
違和感に突き動かされて振り返ったが、そこにはもう彼の姿はなかった。
それと同時に訪れた焦り。気付けば無意識に足が動いていた。
「……っ」
まず誰も行かない、封鎖されたトイレへと。……入って、目に飛び込んできた光景は、後ろから殴られるよりずっと衝撃があった。
理解するに優しく、納得するにはあまりに難い光景。
「秋っ!!」
一直線に伸びた道の先で、放り捨てられたかのように横たわる少年の姿。痛々しいまでに乱れた格好で、秋は気を失っていた。
すぐに駆け寄って、彼を抱き起こした。
顔は熱いが、身体はひどく冷たい。そしてその姿から、何が起きたか、何をされたかは明白だった。
“何で”という気持ちと、“やっぱり”、という気持ちが綯い交ぜになる。混乱はすぐに後悔となり、彼を守れなかった自分への怒りに変わる。
彼の少し腫れた目元に触れた。こんなにも胸が締め付けられたのは生まれて初めてかもしれない。
抵抗したんだろう。腕や首元に薄らと残る傷跡がそれを物語っている。
自分が許せない。
危ないことは重々分かっていたのに、危機感が欠如していた。こんなにも一度にたくさんの感情が溢れ出したのも初めてだ。
どう処理したらいいか考えて……自分の感情なんて、どうだっていいと思い直す。
それより、どうしたら彼を救えるのか。彼に贖うことができるのか。
そんなことすら分からないなんて、とっくの昔にどうかしていたんだ。
「すまない……」
頬に流れる雫が、それを嫌というほど教えてくれる。
自身の上衣を脱いで、彼の肩に掛けた。今はただ、細く傷ついた少年の身体を抱き締めることしかできなかった。
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