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活殺
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しおりを挟むグチャグチャになった頭の中で、掻き消そうとした記憶が蘇る。
それはもう遥か昔のこと。
『ねぇ、秋。お願いがあるんだ』
ある日の放課後、彼は優しい声で言った。
『今から言う子の写真を撮ってきてよ。勿論、バレないようにね』
体も思考も、一瞬で止まった。
だって、……何で?
『何でもいいじゃん。やってくれないの? 滅多にない俺の“お願い”なのに』
あ。
彼に嫌われたらまずいと思い、気付いたら頷いていた。
でも何で。そんなお願い、おかしいだろ。
なのに何で俺は……言われるままにあんなことを。
知らない少年の……『盗撮』を、
「あ……あ、あああぁあぁっ!!」
喉は痛み、既に声は枯れていたが、秋はその場で絶叫した。
辻村の言うとおりにしなければ、初めからこんなことにはならなかった。だから全て自業自得。
……先生と出会ったことすら、必然が生んだ罰だ。
身体に当たる冷たいタイルが体温を奪う。
「あっ……う、うぅ……っ」
息をするのもやっと。誰もいない暗い場所で、全身の痛みに呻く。
……ここには誰も来ないで。
こんな姿を見られたくない。このまま消えてしまいたい。
その為なら何でもできる気がした。けどもう立ち上がる気力もなくて、汚い床に手をつく。頭を強く殴られたような痛みを感じて倒れた。
「……い」
孤独感を倍増させる材料なら山ほどあるけど、忘れられない存在も……ひとつだけ。
「先、生……矢代先生……っ」
誰もいなくなってようやく呼べた名前は、当然、誰にも届かなかった。
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