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査察⑵
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しおりを挟む「お前の悪い所ばかり上げちゃったけど、……つまり何が言いたいかっていうと」
冷たい彼の手が、自分の手に重なった。
「俺は、これからも一緒にいたいと思ってる。……お前が好きだから」
「……うん」
最初から最後まで、まるで緊張はしなかった。胸にたまった熱も、過去の葛藤も、夜の風に吹かれて飛んでいく。
秋は首元をかきながら頷く。
以前の自分なら本当に悩み抜いただろう、大事なことだ。それを今は、悩む間もなく即答した。
いつの間にかもう答えは出ていた。今さら離れるなんてできないし、今さら突き放されても困る。だから。
「いいじゃん。一緒にいようよ」
こんなことを簡単に言えるぐらい────彼に心を奪われていた。周りが見えなくなるほど夢中になってしまっていることに、お互い気付いてなかった。
「決まりだな」
矢代は秋の手を引き寄せて、頬に口付けた。
今までも何度か感じていたが、一番シンプルで、優しいキスだった。
「付き合おう、秋。これからは恋人として、お前の傍にいるから」
触れる指先が少し冷たい。でも、そんなのどうでも良い。
この言葉をどれだけ待っていたか、込み上げてくる喜びで気付いてしまった。
この夜は、これから先ずっと忘れない。
教師と生徒じゃなくなったら、一体どこまで堕ちていけるだろう。もう既に、取り返しのつかない所まで来てるんだろうか。
彼となら、まだまだ今の景色が変わりそうだ。
「秋……」
でも、今だけは全部忘れて。こんな自分を恋人として、抱いてほしい。
中身をめちゃくちゃにされて、そこで初めて自分という人間を分かってもらえる気がする。
「ん……っ!」
思考を停止し、矢代に身を委ねる。いつもの何倍か甘い包容と愛撫が繰り返される。
下が脱がされて、思わず目を瞑った。
彼の大きな掌が太腿の上をなぞっていく。条件反射で後ろに下がると、強引に脚を広げさせられた。
「待って、窓閉めてから……!」
「どうせ見えないよ。ここ八階だし」
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