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査察⑵
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しおりを挟む「へぇ。来て良かったって、そんなに良い事あったんだ?」
不思議そうに尋ねる秋に対し、矢代は焦れったい様子で呟いた。
「分かんないか」
「何が?」
矢代は一拍置く。秋の後頭部に手を添え、自分の胸に引き寄せた。
「お前がいるからだろ」
え。
……そんなこと言われるなんて、夢にも思わなかった。
交わった視線で、一気に顔が熱くなる。色々おかしい。どうしてそんな……自分なんかを。
「前から訊いてるけど、俺の何がいいの」
触れていた胸を少し押して、返答を待つ。矢代はゆっくり離れて、懐かしむように笑った。
「……俺は元々、誰かと居るよりか一人でいる方が性に合ってるんだよ。そこは、お前と一緒」
人付き合いは得意じゃないからな、と矢代は付け加えた。
「そのはずなんだけど……お前といるのは嫌いじゃないんだよ。むしろ自分の方から積極的に関わろうとしていた。生意気なくせに鈍感で、話してて疲れるのに」
彼は移動して窓を開けた。入ってきた風は、今の熱い気持ちを冷ますのに丁度いい。
好きな人と一緒にいると、嫌なことを忘れる。もしかしたら、彼も同じなんだろうか。
「お前と話してると、自然と元気になってるんだよな。自分でも理由が分からなくて、最初はひたすら面白かったよ」
……でも、ようやくその理由に気付いた。
一緒に乗り越えなくてもいい。傍にいれば自力で何とかしてやろうという、勇気を貰える。
そんなことを言っていたと思う。
話の内容より、窓際に佇む彼を綺麗と思ってしまっていた。それこそ、バックの星空が霞んでしまうほどに。
やっぱイケメンは得だよな、なんて関係ないことを思いながら……大事なはずの彼の話は、何一つ頭に残らなかった。
「秋、聞いてるか?」
矢代は訝しげに尋ねる。
何だかそれも面白かったんで、素直に答える。これだけ距離があれば参考書を振り落とされることもないだろうし。
「悪い、全然聞いてなかった。もう一回最初からオナシャス」
「マジかよ。今のは二回も言いたくない」
さすがの矢代も、ウンザリしたように窓際に寄りかかった。
そして少し深呼吸をした後、疲れきった声で告げた。
「俺はお前に初めて会った時から、お前を知ろうと頑張ってた」
「へぇー、そうなんだ。おつかれ」
「軽……まっ、自分でも無意識に、だけど」
彼の声は、ずいぶん小さくなった。
指摘するのも何か違う気がして、秋は進んで矢代の隣へと歩く。
「でも知れば知るほど、分からないことも多かったよ。普段は静かなくせに怒らすと結構危険だし、かといって優しくすると泣くし、本当に扱いづらかった」
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