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査察⑵

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食事が終わった後、矢代は開口一番「じゃあ勉強するか」と立ち上がった。
切り替え早っ。てかマジでやるんだ、勉強……と色々考えながら、秋は無言でお茶を飲んだ。 
「もちろん知ってると思うけど、再来週は期末テストだ。毎回赤点すれすれを狙ってくるお前はある意味賞賛に値するけど、数学の担当が俺である以上もう少し頑張ってもらわないと困る」
「あー……うん」
テストか。そういえばそんなものあったね。

やる気満々の矢代と違い、秋は赤点さえ取らなければ別にいいと、わりと本気で考えていた。

それから二時間後。

「……秋。手が止まってる」

さっきよりもじめっとした空気だ。
矢代の仕事部屋で、彼の教科書を借りて勉強をしている。といっても、今が正に停滞中と言っていい。
「どこで行き詰まってんだ?」
矢代は片手間に仕事をしながら、たまに寄り添って解らない問題を教えてくれる。
さすがに教え方は上手かった。人間は腐ってても教師だ。普段数学の授業なんて寝てるから気付かなかったけど。
「はーん。なるほど、ちょっと分かった気がする。いや、分かりかけてる気がする」
「なるほど、分かってないな。……まぁいいや、次の問題もやってみろ」
そう言うと彼はまたデスクに戻り、背を向けた。
……。
思わずため息をつきそうになって、慌てて首を振った。

───今は勉強に集中しないと。

でもそう強く思うほど、頭の中に別の考えが重くのしかかってくるのは。
「今度はどうした」
矢代は椅子の背に最大限寄りかかり、振り返った。
何でバレたんだろう。……あぁ、手が止まってたからか。
紙に擦れる音がしないから。適当に落書きでもしてれば良かった。
なんて、そんなの根本的な解決にはならない。わかってるけど。

「ちなみに、秋。やる気あるか?」
「……」

矢代は本当に鋭い。読心術でも習得してんじゃないかってほどに、こっちの心の内を当ててくるから怖い。
まぁそれは一旦置いとこう。「ありません」って言ったら多分殴られるな。
「最初の五分だけあった。それはマジで命懸ける」
でも今はない。と言ったら、参考書の角で殴られた。



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