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査察⑴
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しおりを挟む「せっかくの休みを潰して悪かったな」
矢代はデータを保存すると、画面をホームに戻した。
「お互い様じゃん。部屋、多分大体片付いたよ」
「助かった。腹減ったろ、なにか作るから待ってろ」
矢代は立ち上がり、少し身体を伸ばすが、秋はそれを制止した。
「待って。悪いからいいよ。俺そろそろ帰る」
「そうか。お父さんが心配するか」
「いや親父は……土日こそ帰って来ないけど」
秋は矢代から視線を外し、低い声で答えた。視線を泳がせていると、矢代は笑って腕を組んだ。
「じゃあ……今日も泊まってけ、少しなら勉強も見るから」
「え。でも……いいの?」
「駄目なら言わないよ」
矢代は眼鏡を外すと、さっさと部屋を出ていってしまった。
相変わらずマイペースだが……内心ホッとしていた。
一人で家に居てもきっと余計なことばかり考えてしまうから。今は、彼の強引さが丁度良いぐらいに感じた。
「お前、何が好きなんだ?」
秋が台所へ向かうと、矢代は顔を上げて彼に尋ねた。
「何の話?」
「飯」
矢代は棚やら冷蔵庫やら、使えそうな食材を漁っている。
「あぁ~。肉」
「そういうアバウトなのはやめろ」
彼は少しムッとした顔で冷蔵庫を閉じた。しかしいきなり言われても、こっちだって思いつかない。
「じゃあ、唐揚げ」
「唐揚げか。お前毎日食ってるもんな。ぶっちゃけ飽きないか?」
飽きないと即答すると、矢代はすんなり調理に取り掛かった。
「分かった。作るから待ってな」
矢代はボールを用意し、早速準備を始めた。
待ってろって言われたけど、何か手持ち無沙汰だ。
「見ててもいい?」
隣に移動して言うと、矢代は不思議そうに見返した。
「見て楽しいか? っていうより、暇なら作ってみるか?」
思いがけない提案を出され、秋は慌てて両手を振った。
「無理だよ、俺作ったことないもん! 全然分かんない!」
「心配しなくても、唐揚げなんて小学生でも作れるよ。それに覚えておけば、家で好きな時に作れるだろ?」
「それはそうだけど……」
何から始めれば良いのかも分からない。秋は最後まで迷っていたが、矢代は手を洗うよう促してきた。
「決まり。ちゃんと教えてやるから心配すんな」
こう言われてしまうと、もう拒否できない。
こんな見惚れてしまいそうな笑顔で言われたら。
「……わかった」
まさか数学の先生に料理を教わるとは思わなかったけど。
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