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査察⑴

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先生は荷物を適当に仕舞ってくれと言ってたけど、それはいくらなんでも適当過ぎだ。勝手に整理したら、何がどこにあるのか把握できないに決まってるのに。ポストイットも面倒だし、いっそ嫌がらせで複雑な物の配置をしてやろうかと思った。でも、それも何だから真面目に片付けた。

「あー……もう無理! もう嫌だ!」

さすがに嫌気が差し、秋は床に大の字で倒れた。天井を見上げながら、ふと疑問に思う。
このところ自分の部屋すら片付けてないのに、何故俺は他人の部屋を汗水流して片付けているんだ。
それと面白い物がないから気が滅入る。先生だって若いんだから、もう少しゲームとか持ってるべきだよな。
せめてアルバムとかがあれば良いのに……先生の荷物からは、過去の写真は一枚も見つからなかった。


時間が流れるのは意外と早い。
借りた充電器からスマホを外して確認すると、もう十八時だった。
「もういいよな。もう……これくらいでいいよな……?」
誰に確認してるのか自分でも分からないが、独り言が止まらない。
まぁあらかた片付いたと思う。ダンボールは全て分解して纏めたし、荷物も押入れや棚に詰め込んだ。

喉が乾く。
秋は台所へ向かおうとしたが、ふと気になって矢代が居る部屋を軽く覗いた。
彼は眼鏡をかけて、まだパソコンに向かっている。余程集中しているのか、こちらに気付く様子はない。
ほんと、仕事に対しては別人だ。人を勝手に泊めておいて、放ったらかしにするぐらいだし。

「……」

音を立てないよう静かに通り過ぎ、秋は台所へ向かった。


秋の想像通り、矢代は黙々と書類作成をしていた。
本来なら学校でやった方がいいが、今日はどうしても家にいたかったために持ち帰った仕事だった。

「ちょっとは休めば?」
 
カタン、と矢代の手元に何かが置かれる。見れば、まだ湯気が立ってるコーヒーだった。
「……」
後ろを振り返ると、ジュースをゴクゴク飲みながら佇む秋がいた。
「勝手に貰ってるよ。いいでしょ?」
秋は悪びれることもなく、堂々と言い放った。遠慮なしの態度が清々しく感じるほどだ。
それでも矢代が黙ったまま目を丸くしていると、突然焦り出し、カップを差し出した。
「俺コーヒーなんて親父にも入れたことないし、砂糖の量とか分かんないから。ブラックですいませんね!」
睨みながらも少し照れくさそうに、秋は腕を組んだ。

「……いや、俺はブラックしか飲まない。ありがとな」

若干怒ってるみたいだけど、彼なりに気を遣ってくれている。
それがわかって、素直に嬉しかった。矢代は凝り固まった肩を回しながら、少し薄めのコーヒーを飲んだ。




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