110 / 171
査察⑴
9
しおりを挟む先生は荷物を適当に仕舞ってくれと言ってたけど、それはいくらなんでも適当過ぎだ。勝手に整理したら、何がどこにあるのか把握できないに決まってるのに。ポストイットも面倒だし、いっそ嫌がらせで複雑な物の配置をしてやろうかと思った。でも、それも何だから真面目に片付けた。
「あー……もう無理! もう嫌だ!」
さすがに嫌気が差し、秋は床に大の字で倒れた。天井を見上げながら、ふと疑問に思う。
このところ自分の部屋すら片付けてないのに、何故俺は他人の部屋を汗水流して片付けているんだ。
それと面白い物がないから気が滅入る。先生だって若いんだから、もう少しゲームとか持ってるべきだよな。
せめてアルバムとかがあれば良いのに……先生の荷物からは、過去の写真は一枚も見つからなかった。
時間が流れるのは意外と早い。
借りた充電器からスマホを外して確認すると、もう十八時だった。
「もういいよな。もう……これくらいでいいよな……?」
誰に確認してるのか自分でも分からないが、独り言が止まらない。
まぁあらかた片付いたと思う。ダンボールは全て分解して纏めたし、荷物も押入れや棚に詰め込んだ。
喉が乾く。
秋は台所へ向かおうとしたが、ふと気になって矢代が居る部屋を軽く覗いた。
彼は眼鏡をかけて、まだパソコンに向かっている。余程集中しているのか、こちらに気付く様子はない。
ほんと、仕事に対しては別人だ。人を勝手に泊めておいて、放ったらかしにするぐらいだし。
「……」
音を立てないよう静かに通り過ぎ、秋は台所へ向かった。
秋の想像通り、矢代は黙々と書類作成をしていた。
本来なら学校でやった方がいいが、今日はどうしても家にいたかったために持ち帰った仕事だった。
「ちょっとは休めば?」
カタン、と矢代の手元に何かが置かれる。見れば、まだ湯気が立ってるコーヒーだった。
「……」
後ろを振り返ると、ジュースをゴクゴク飲みながら佇む秋がいた。
「勝手に貰ってるよ。いいでしょ?」
秋は悪びれることもなく、堂々と言い放った。遠慮なしの態度が清々しく感じるほどだ。
それでも矢代が黙ったまま目を丸くしていると、突然焦り出し、カップを差し出した。
「俺コーヒーなんて親父にも入れたことないし、砂糖の量とか分かんないから。ブラックですいませんね!」
睨みながらも少し照れくさそうに、秋は腕を組んだ。
「……いや、俺はブラックしか飲まない。ありがとな」
若干怒ってるみたいだけど、彼なりに気を遣ってくれている。
それがわかって、素直に嬉しかった。矢代は凝り固まった肩を回しながら、少し薄めのコーヒーを飲んだ。
1
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集
夜井
BL
完結済みの短編エロのみを公開していきます。
現在公開中の作品(随時更新)
『異世界転生したら、激太触手に犯されて即堕ちしちゃった話♥』
異種姦・産卵・大量中出し・即堕ち・二輪挿し・フェラ/イラマ・ごっくん・乳首責め・結腸責め・尿道責め・トコロテン・小スカ
振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話
雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。
諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。
実は翔には諒平に隠している事実があり——。
諒平(20)攻め。大学生。
翔(20) 受け。大学生。
慶介(21)翔と同じサークルの友人。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした
雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。
遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。
紀平(20)大学生。
宮内(21)紀平の大学の同級生。
環 (22)遠堂のバイト先の友人。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる