シャッターを切るときは

七賀ごふん

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査察⑴

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「はい」

彼は何とも気のない返事をした。あんな声だったのか。思ったより高い。

……その後はとにかく落ち着かなかった。どうしてもあの少年が視界に入ると、あの日の出来事を思い出してしまう。

盗撮が趣味? いや、それはさすがにないか。撮ってた時は、むしろ怯んでいる様子だった。片思いの相手を盗撮してた、と考える方が自然だ。

彼はその容姿に反して、とても物静かだ。だからなのか他の生徒から人気があり、人望もあるようだった。
風間は固定の友人を作らない。しかし独りで過ごしていても、クラスの生徒達は順番に彼に近寄り話をしていた。彼もまた話を聴くのが上手いようで、クラスの隠れたムードメーカーにみえる。

何の問題もない、何も起きない。
このままなら普通に一年が過ぎ去る。そう思った。
でもその思いが崩れたのは、わずか一週間後。

「……なぁ、知ってる? 最近ヤンキー達が屋上で何してるか」

ふと、教室で生徒達の噂話を耳に挟んだ。
「知らね。エロ本でも見てんじゃねえの」
「ははは、当たり。まあ自己満ならいいんだけどさ。それだけじゃなくて、何か大人しそうな奴に高く売りつけてんだって」
「エロ本の即売会かぁ。でもそれなら、中古で好みの見つけた方が得だよな。捕まんないようにしよーっと」

……。

ほとんどの生徒の反応はこうだ。屋上はそもそも閉鎖されて行けないはずだけど……気になるから、一応見に行くか。
矢代は教室から出て行った。その後ろで、少しだけ交わされる会話。

「あれー、風間は?」
「さぁ。帰ったんじゃね」



────廊下を抜ける。

もう放課後だ。
クラスで騒ぐ生徒達を残し、矢代は屋上へ向かう。噂が本当なら、集まっていてもおかしくないはずだ。
屋上階段を上りきり、重い扉の取っ手を回した。
……開いてる。
屋上は常時施錠してるはずなのに。これは噂話じゃ済まないかもしれない。正直やれやれといった気持ちで扉を開けた。
眩しい光の先で、生徒達の騒ぎ声が聞こえる。

「……なぁ、これとかどうよ? 兄貴からパクったんだけど、非売品らしいぜ」

ビンゴだ。深いため息をついた後、矢代は堂々と屋上に乗り出した。




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