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査察⑴
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しおりを挟むそれはもうずっと前。心の奥底に埋もれた記憶だ。
時は放課後、場所は人気のない教室で。
あれは───まさか、盗撮?
矢代は自身の目を疑った。
廊下にいる一人の少年がスマホのカメラを起動して、教室の中に居る生徒に向けている。
遠目でしか窺えないが、少年は教室でひとり勉強している生徒を画面に映している。そして、無音のシャッターを切った。
思わず後ろに下がり、廊下の角からその異様な光景を見ていた。
……異常な現場に遭遇していた。
これはまずい。危険だ。
そう思うのに身体は動かず、盗撮を続ける少年に釘付けになった。
この少年は一体何を考えているのか。
何故あんなにも青ざめた顔で、カメラを回し続けているのか。そんなどうでもいい事ばかりに気を取られて、彼を咎めることができなかった。
名前もクラスも分からない。見たのは綺麗な横顔だけ。段々その記憶は色褪せていく。あの日あの時、彼を咎めなかった矢代の罪も重かった。
だがそんな事件も置き去りに、時間は悠々と流れ、学校は新学期を迎える。
「今年から、矢代先生には二年一組の担任として頑張っていただきます。お願いしますね、矢代先生」
拍手が職員室に響く。朝礼を済ませ、気持ちを切り替える。
二年生……か。
出席簿と必要なプリントを持って、矢代は新しい教室へ向かった。
「はい、みんな席について。一組の担任の矢代光希だ。担当科目は数学。分からないことがあったら遠慮せず、何でも聴いてくれ」
クラス替えしたばかりだから生徒達はお喋りに夢中で、着席するまでに時間が掛かった。本当に賑やかだ。
「これから一年宜しく」
「宜しくお願いしまーす」
矢継ぎ早に挨拶して、教卓に手をつく。決して特別な時間じゃない。俺は毎年やることで、彼ら二年にとっても、担任はそれほど重要な存在でもない。
目の前にいるのが当たり前。前を向いていても、彼らが見ているのは“教師”じゃない。“俺”でもなく、“大人”でもなく……どこか異次元にいる生命体ぐらいに思ってそうだ。
自分もそうだったから、よく分かる。
「出席取るから、呼ばれたら返事するように」
「はーい」
去年授業を担当した生徒も結構いた。順々に生徒の名前と顔を確認していく、その課程で、矢代は息をのんだ。
窓側に座る茶髪の生徒。あの派手な容姿は間違いない。
────以前、廊下で盗撮をしていた生徒だ。
……っ。
まさか、こんなところで再会するとは。いや、あれだけ派手で今まで知らなかったことの方が不思議だろう。この学校の生徒は皆スレてないから、ああいうタイプは目立つ。
でも、目を見張るほどの美少年だ。共学だったら絶対女子がほっとかないようなルックス。
……と、それより早く呼ばないと怪しまれる。
彼の名前は……。
「風間……秋」
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