上 下
102 / 171
査察⑴

しおりを挟む



それはもうずっと前。心の奥底に埋もれた記憶だ。
時は放課後、場所は人気のない教室で。

あれは───まさか、盗撮?

矢代は自身の目を疑った。

廊下にいる一人の少年がスマホのカメラを起動して、教室の中に居る生徒に向けている。
遠目でしか窺えないが、少年は教室でひとり勉強している生徒を画面に映している。そして、無音のシャッターを切った。

思わず後ろに下がり、廊下の角からその異様な光景を見ていた。
……異常な現場に遭遇していた。

これはまずい。危険だ。
そう思うのに身体は動かず、盗撮を続ける少年に釘付けになった。
この少年は一体何を考えているのか。
何故あんなにも青ざめた顔で、カメラを回し続けているのか。そんなどうでもいい事ばかりに気を取られて、彼を咎めることができなかった。

名前もクラスも分からない。見たのは綺麗な横顔だけ。段々その記憶は色褪せていく。あの日あの時、彼を咎めなかった矢代の罪も重かった。

だがそんな事件も置き去りに、時間は悠々と流れ、学校は新学期を迎える。

「今年から、矢代先生には二年一組の担任として頑張っていただきます。お願いしますね、矢代先生」

拍手が職員室に響く。朝礼を済ませ、気持ちを切り替える。
二年生……か。
出席簿と必要なプリントを持って、矢代は新しい教室へ向かった。

「はい、みんな席について。一組の担任の矢代光希だ。担当科目は数学。分からないことがあったら遠慮せず、何でも聴いてくれ」

クラス替えしたばかりだから生徒達はお喋りに夢中で、着席するまでに時間が掛かった。本当に賑やかだ。
「これから一年宜しく」
「宜しくお願いしまーす」
矢継ぎ早に挨拶して、教卓に手をつく。決して特別な時間じゃない。俺は毎年やることで、彼ら二年にとっても、担任はそれほど重要な存在でもない。
目の前にいるのが当たり前。前を向いていても、彼らが見ているのは“教師”じゃない。“俺”でもなく、“大人”でもなく……どこか異次元にいる生命体ぐらいに思ってそうだ。

自分もそうだったから、よく分かる。


「出席取るから、呼ばれたら返事するように」
「はーい」
去年授業を担当した生徒も結構いた。順々に生徒の名前と顔を確認していく、その課程で、矢代は息をのんだ。
窓側に座る茶髪の生徒。あの派手な容姿は間違いない。
────以前、廊下で盗撮をしていた生徒だ。

……っ。

まさか、こんなところで再会するとは。いや、あれだけ派手で今まで知らなかったことの方が不思議だろう。この学校の生徒は皆スレてないから、ああいうタイプは目立つ。
でも、目を見張るほどの美少年だ。共学だったら絶対女子がほっとかないようなルックス。
……と、それより早く呼ばないと怪しまれる。

彼の名前は……。


「風間……秋」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話

雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。  諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。  実は翔には諒平に隠している事実があり——。 諒平(20)攻め。大学生。 翔(20) 受け。大学生。 慶介(21)翔と同じサークルの友人。

【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集

夜井
BL
完結済みの短編エロのみを公開していきます。 現在公開中の作品(随時更新) 『異世界転生したら、激太触手に犯されて即堕ちしちゃった話♥』 異種姦・産卵・大量中出し・即堕ち・二輪挿し・フェラ/イラマ・ごっくん・乳首責め・結腸責め・尿道責め・トコロテン・小スカ

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

浮気されてもそばにいたいと頑張ったけど限界でした

雨宮里玖
BL
大学の飲み会から帰宅したら、ルームシェアしている恋人の遠堂の部屋から聞こえる艶かしい声。これは浮気だと思ったが、遠堂に捨てられるまでは一緒にいたいと紀平はその行為に目をつぶる——。 遠堂(21)大学生。紀平と同級生。幼馴染。 紀平(20)大学生。 宮内(21)紀平の大学の同級生。 環 (22)遠堂のバイト先の友人。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

処理中です...