シャッターを切るときは

七賀ごふん

文字の大きさ
上 下
97 / 179
考察⑵

しおりを挟む


「俺……次会ったとき、会長に殺されるかも。苅谷さんの件があるから、ガチめに後ろから刺される可能性ある」

あらかた今日あった出来事を話し終えて、秋は冷めた紅茶を飲んだ。

「しっかし、須佐は……学校にゲイを捜してる奴がいるなんて噂を誰から聴いたんだろうな?」

それまで閉口していた矢代が不思議そうに腕を組む。
「さぁ、そこまでは。でも砂川がゲイ仲間に何か話した可能性もある。売店のお姉さんに、ゲイを捜してることは言っちゃったからさ……」
「そうだったな。でも目的は知られてないんだろ? それならまだ最悪じゃない。いくらでも否定できる」
矢代は席を立ち、秋の紅茶をいれなおした。
「心配すんな。噂はともかく、須佐はしばらく大人しくなるよ」
「え、どうして?」
「何となく」
何だ、その根拠のないセリフは。腑に落ちなくて頬を膨らました。

「それより、須佐が言っていた……お前の情報を売った“元彼”な。そっちも注意しておけ。目星がついてるなら今すぐ話せ」

矢代は険しい顔で秋を見据える。
「……」
それは自分にとってもダメージのある出来事だった。俯き、少しの沈黙の後首を横に振る。
「わかんない」
頭の中がぐちゃぐちゃになる。絡みきった糸をほぐそうにも手が滑って、やる気すら出ない。

いっそ全部捨ててしまえたら楽なのに。

「……ごめん。ちょっとトイレ」

矢代の横をすり抜け、秋は手洗いへと向かった。
不安で押し潰されそうだ。誰かに縋りつきたい。

でも駄目だった。
全ては自業自得。自分の為に盗撮を続けた自分に、助けを求める資格はない。
屋上での校則違反から始まったことだが、全生徒から軽蔑の眼差しを向けられてる今の状況こそ、今の自分に相応しい罰。
常識も道徳もかなぐり捨ててシャッターを押してきた自分には、むしろ軽いぐらいの……。

「……」

リビングへ戻ると、矢代は変わらずビールを飲んでいた。もう三本目だけど、普段からこれぐらい飲むんだろうか。
「先生」
いや、無理して酔ってる様に見えた。
原因はわかってる。

「何か俺、クラスどころか学校一の問題児だったみたい……」

秋は引き攣った笑顔で、矢代が座るソファの肘掛けに寄りかかった。
「最悪だね。親友すら騙してさ。こんな最低な奴、捜してもそうそう居ないよ。ゲイの方が簡単に見つかると思う」
「……」
矢代はビールを置くと、秋の腕を引っ張った。
「わっ!」
そのせいで秋は横に倒れ込み、そのまま矢代の腕に抱かれる体勢となった。

「大体の物事はなるようになるだけだ。今が最悪なら、後は上がるだけ」
「……」

矢代は秋を抱き起こし、自分の膝の上に乗せた。彼の髪を丁寧に梳き、少し火照った顔で続ける。
「盗撮は俺がお前にやらせていたことだ。本来罰を受けるのは俺の方なんだよ」
変な体勢のまま彼の話を聞く。
それなのに、ずっとこうしていたいと思った。

「良くも悪くも、俺はお前を変えた。体も心も、環境も。俺は一生をかけて、その責任をとるつもりだよ。もう絶対、お前を離さない」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

父のチンポが気になって仕方ない息子の夜這い!

ミクリ21
BL
父に夜這いする息子の話。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

処理中です...