シャッターを切るときは

七賀ごふん

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考察⑵

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「俺……次会ったとき、会長に殺されるかも。苅谷さんの件があるから、ガチめに後ろから刺される可能性ある」

あらかた今日あった出来事を話し終えて、秋は冷めた紅茶を飲んだ。

「しっかし、須佐は……学校にゲイを捜してる奴がいるなんて噂を誰から聴いたんだろうな?」

それまで閉口していた矢代が不思議そうに腕を組む。
「さぁ、そこまでは。でも砂川がゲイ仲間に何か話した可能性もある。売店のお姉さんに、ゲイを捜してることは言っちゃったからさ……」
「そうだったな。でも目的は知られてないんだろ? それならまだ最悪じゃない。いくらでも否定できる」
矢代は席を立ち、秋の紅茶をいれなおした。
「心配すんな。噂はともかく、須佐はしばらく大人しくなるよ」
「え、どうして?」
「何となく」
何だ、その根拠のないセリフは。腑に落ちなくて頬を膨らました。

「それより、須佐が言っていた……お前の情報を売った“元彼”な。そっちも注意しておけ。目星がついてるなら今すぐ話せ」

矢代は険しい顔で秋を見据える。
「……」
それは自分にとってもダメージのある出来事だった。俯き、少しの沈黙の後首を横に振る。
「わかんない」
頭の中がぐちゃぐちゃになる。絡みきった糸をほぐそうにも手が滑って、やる気すら出ない。

いっそ全部捨ててしまえたら楽なのに。

「……ごめん。ちょっとトイレ」

矢代の横をすり抜け、秋は手洗いへと向かった。
不安で押し潰されそうだ。誰かに縋りつきたい。

でも駄目だった。
全ては自業自得。自分の為に盗撮を続けた自分に、助けを求める資格はない。
屋上での校則違反から始まったことだが、全生徒から軽蔑の眼差しを向けられてる今の状況こそ、今の自分に相応しい罰。
常識も道徳もかなぐり捨ててシャッターを押してきた自分には、むしろ軽いぐらいの……。

「……」

リビングへ戻ると、矢代は変わらずビールを飲んでいた。もう三本目だけど、普段からこれぐらい飲むんだろうか。
「先生」
いや、無理して酔ってる様に見えた。
原因はわかってる。

「何か俺、クラスどころか学校一の問題児だったみたい……」

秋は引き攣った笑顔で、矢代が座るソファの肘掛けに寄りかかった。
「最悪だね。親友すら騙してさ。こんな最低な奴、捜してもそうそう居ないよ。ゲイの方が簡単に見つかると思う」
「……」
矢代はビールを置くと、秋の腕を引っ張った。
「わっ!」
そのせいで秋は横に倒れ込み、そのまま矢代の腕に抱かれる体勢となった。

「大体の物事はなるようになるだけだ。今が最悪なら、後は上がるだけ」
「……」

矢代は秋を抱き起こし、自分の膝の上に乗せた。彼の髪を丁寧に梳き、少し火照った顔で続ける。
「盗撮は俺がお前にやらせていたことだ。本来罰を受けるのは俺の方なんだよ」
変な体勢のまま彼の話を聞く。
それなのに、ずっとこうしていたいと思った。

「良くも悪くも、俺はお前を変えた。体も心も、環境も。俺は一生をかけて、その責任をとるつもりだよ。もう絶対、お前を離さない」




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