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考察⑵
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しおりを挟む出発して十五分程で矢代の家に到着した。とても綺麗なマンションの一室だったが、中は少し散らかっている。
ダンボール箱がそこら中を陣取って、歩くスペースを奪っていた。これは……。
「もしかして、引っ越ししたばかり?」
「あぁ。片付けるのが面倒でな。新しい家具も色々買ったのに、まだレイアウトも何もできてないんだ」
やはりそうか。引越しが多かった秋には、すぐに理解できた。唯一綺麗なのは、連れられた先のリビングだけ。
部屋の片付け具合はともかく、初めて矢代の家に来た事に秋は緊張していた。
促されるままソファに座って、出された紅茶を口にする。スマホを見ると、もうすぐ日付が変わりそうだった。
「ねぇ、一人暮らしって自由?」
「そりゃな。一人なんだから」
矢代は上着を脱ぎながら、とても淡々と言い放った。こういう所は大人の男らしい。
「そっか。俺も卒業したら一人暮らししようかな」
とはいえ、今もじゅうぶん自由だ。それが今より自由になる。……どんな感じなんだろう。
「それはいいけど、全部自己責任だからな。何かあっても親に泣きつくなよ」
「わ、わかってるよ」
矢代は秋と向かい合ったソファに深く腰かけた。彼は缶ビールを一気に飲み、適当なつまみをテーブルに並べる。
「……」
沈黙が流れる。ここに来て、話題が急に切れてしまった。
泊まり自体急だったから、スマホとサイフ以外何も持ってないし。……手持ち無沙汰でソワソワした。本当は言わなきゃいけないことや、相談したいことがたくさんあるけど、タイミングが掴めない。
それから数分、お互い無言のまま過ごした。
彼は沈黙が苦なタイプではないらしい。
秋もそのタイプだ。だけど今は、彼と話したくてしょうがない。だからやきもきする。
普段から罵詈雑言ばかり浴びせてると真剣な場面で損するということを学んだ。
ただ、噂の件だけは……隠したところで時間の問題だから、言っておかないと。
「あの……驚かないで聴いてほしいんだけど、大変なことが起きてるんだ」
何て説明しよう。
単刀直入に、自分がゲイだ、と噂されてる。とか?
「あぁ。お前がゲイだって噂されてることか」
飲みかけていた紅茶が喉のところで逆流して、秋は咳き込んだ。
「知ってたの!?」
ある意味助かった。しかし何でもっと早くに話を振ってこなかったんだろう。てっきり責められると思ったのに。
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