シャッターを切るときは

七賀ごふん

文字の大きさ
上 下
80 / 179
盗撮⑵

10

しおりを挟む



やはりその日は、放課後になっても落ち着きを取り戻せなかった。午後の授業も身に入らず……なんて事を言ったらいつもは身に入ってる様に聞こえるが、そういう訳じゃない。
ただ確かなのは、誰が見ても分かるくらいにボーッとしていたと思う。 

「こら、いつまで呆けてんだ」

放課後の教室で、秋は額を小突かれた。
「矢代先生……」
彼は額を押さえて、目の前に佇む担任を見据えた。
普段と変わらない微笑を浮かべるのは矢代だ。彼が話しかけてきてくれて正直ホッとした。と同時に、今まで凄い不安に駆られていたんだと気付く。

「俺の授業中も上の空だったな。どうした? 次のテストの心配……とかないよな、お前に限って」
「それは……違うね、確かに」

秋は姿勢を崩して頬杖をついた。その様子に、矢代は怪訝な表情で屈む。
「いつもならもっと反抗してくるのに。本当に、何があった」
そう言って矢代は急に秋との距離を詰める。
整った顔をギリギリまで近付けられて、妙な劣等感を覚えた秋は思わず身を引いた。
「お前、また何か隠してるな」
「……別に、何も」
否定の言葉を紡ごうとした途端、唇に柔らかいものを押し当てられた。一瞬ドキッとしたが、少し離れた位置に矢代の顔があるので安心する。当てられたのは人差し指みたいだ。

「嘘は聞きたくない。いいから話してみろ」
「……」

真っ直ぐな視線を向けられて、思わず目を逸らしてしまった。これだけでもう、嘘を認めたと同じだ。
「言ったら、怒るんじゃないかな」
半ば諦め気味に呟いた。昼間のことはきっと黙ってても広まってしまうかもしれないから。
「怒らないから言え。それとも場所を変えるか?」
「いや、いい。あのさ……もしかしたら……」
秋が先を言おうとしたその時、教室のドアが思いきり開かれた。

「失礼しまーす、矢代先生ー、ども!」

聞き覚えのある声に、嫌な予感がした。
「須佐? どうした」
「あは、ちょっと用事を思い出して」

二年生の教室に堂々と入って来た少年は、昼間に売店で出会した須佐だった。

そして今、最も会いたくない人……。
彼は自分と矢代の間に立つと、無邪気な笑顔を浮かべた。昼間のことを彷彿とさせる展開に、思わず手に力が入る。

「あのぉー、ちなみに何の話してたんですか」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

隣の親父

むちむちボディ
BL
隣に住んでいる中年親父との出来事です。

父のチンポが気になって仕方ない息子の夜這い!

ミクリ21
BL
父に夜這いする息子の話。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

処理中です...