シャッターを切るときは

七賀ごふん

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盗撮⑵

10

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やはりその日は、放課後になっても落ち着きを取り戻せなかった。午後の授業も身に入らず……なんて事を言ったらいつもは身に入ってる様に聞こえるが、そういう訳じゃない。
ただ確かなのは、誰が見ても分かるくらいにボーッとしていたと思う。 

「こら、いつまで呆けてんだ」

放課後の教室で、秋は額を小突かれた。
「矢代先生……」
彼は額を押さえて、目の前に佇む担任を見据えた。
普段と変わらない微笑を浮かべるのは矢代だ。彼が話しかけてきてくれて正直ホッとした。と同時に、今まで凄い不安に駆られていたんだと気付く。

「俺の授業中も上の空だったな。どうした? 次のテストの心配……とかないよな、お前に限って」
「それは……違うね、確かに」

秋は姿勢を崩して頬杖をついた。その様子に、矢代は怪訝な表情で屈む。
「いつもならもっと反抗してくるのに。本当に、何があった」
そう言って矢代は急に秋との距離を詰める。
整った顔をギリギリまで近付けられて、妙な劣等感を覚えた秋は思わず身を引いた。
「お前、また何か隠してるな」
「……別に、何も」
否定の言葉を紡ごうとした途端、唇に柔らかいものを押し当てられた。一瞬ドキッとしたが、少し離れた位置に矢代の顔があるので安心する。当てられたのは人差し指みたいだ。

「嘘は聞きたくない。いいから話してみろ」
「……」

真っ直ぐな視線を向けられて、思わず目を逸らしてしまった。これだけでもう、嘘を認めたと同じだ。
「言ったら、怒るんじゃないかな」
半ば諦め気味に呟いた。昼間のことはきっと黙ってても広まってしまうかもしれないから。
「怒らないから言え。それとも場所を変えるか?」
「いや、いい。あのさ……もしかしたら……」
秋が先を言おうとしたその時、教室のドアが思いきり開かれた。

「失礼しまーす、矢代先生ー、ども!」

聞き覚えのある声に、嫌な予感がした。
「須佐? どうした」
「あは、ちょっと用事を思い出して」

二年生の教室に堂々と入って来た少年は、昼間に売店で出会した須佐だった。

そして今、最も会いたくない人……。
彼は自分と矢代の間に立つと、無邪気な笑顔を浮かべた。昼間のことを彷彿とさせる展開に、思わず手に力が入る。

「あのぉー、ちなみに何の話してたんですか」




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