シャッターを切るときは

七賀ごふん

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盗撮⑵

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藤間は嬉しそうに、恋人の手作り料理を食べただの、普段行かない高級レストランに行っただの語り出した。

笑顔をつくって、聴くことに徹する。藤間だから良いが、これが好きでもない相手だったら退屈で欠伸が出そうだ。

他人に興味を持てない性質なんだろう。

ちょっと冷静になればわかる。自分はひどくつまらない人間だ。


矢代は自分という人間を客観的に見ていた。他者に指摘されなくても自分が異常な性癖を持ってることは理解している。しかし人よりいくらか優れて、いくらか恵まれている。

とんとん拍子で進んだ人生だった。エスカレーターに乗ってここまで運ばれてきたかのように。大雨が降って周りが水浸しになってる中、自分だけは綺麗なまま。人より大きな傘を持ってる。
その様は、周りから見れば羨ましかっただろう。子どもの時から周りで囁かれていたことを知っている。

『完璧』過ぎて怖いと。

それが良くも悪くも人を遠ざける材料となる。そして年を重ねるにつれて、人との関わりを欲した。
今まで色んな建前を語ってきた……教師を目指したのは、弁論の機会を増やし、教え子という不思議な関係を手に入れたかったからかもしれない。

だが、それは間違いなく失敗した。教師になれたものの自分は教師不適合者だと自信を持って言える。そして教師になった時点で、生徒とは立ってるステージが違いすぎることに気付いた。

勉強ばかりして、こんな当たり前のことに気付けなかったのは愚かにも程がある。

『矢代先生って本当完璧だよね。お手本みたいな、完成された大人って感じで……絶対、なれる気しないや』

ある生徒の言葉を耳にしてから、ようやく自分の勘違いを思い知った。教師になろうが何になろうが、自分は自分で、その本質まで変わるわけじゃない。
他人の彼に対する見方は常に、“完璧な人間”だった。
生徒の不安や悩みを知った気になっても、解決はできない。歳を重ねるごとに彼らとの距離は遠のく。

どんどん面倒くさい大人になってる自覚がある。こんな人間の、一体どこが『完璧』なんだろう。

そこらで流れるお笑い番組よりよっぽど可笑しくて、下手したら一晩笑い転げることができそうだった。



 
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