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盗撮⑴
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しおりを挟む藤間は周りに人がいないことを確認すると、砕けた言い方で矢代の横に並んだ。
「お前、ひとりでにやけてるぞ。何かあったのか?」
「は」
ギクッとした。まさか、と思ったものの近くに鏡がないので確認しようがない。
しかしその質問には少し心当たりがある為、非常に気まずかった。
「別に……何も」
だけども、それを話すわけにはいかない。
藤間とは同期な上、歳が一緒だから親しい仲だ。それでも絶対に言えない。クラスの生徒と、秘密の関係を持ってることは。
「……そうか。何もないなら、多分疲れてんだな。笑顔作り過ぎて表情筋おかしくなったんじゃないか」
藤間は書類をまとめながら席につく。彼のこういう、学生のノリがなおらないところは嫌いじゃない。特に何も返さず、隣に座った。
「矢代、そういう時何があると良いと思う?」
「酒?」
「ふふん。それはズバリ、恋人だよ」
恋人。
それなら、ついさっき拒絶したばかりだ。
“恋人”の関係を手に入れられたかもしれない状況で一歩引いたのは……自分の方。だから、
「……俺はいいよ。お前が結婚したら、一応御祝儀出すよ」
「一応って何だよ!」
矢代もまた自身の席へ向かい、パソコンを立ち上げた。藤間はデスクに頬杖をつき、彼の横顔を眺める。
「ま、無理に作る必要はないけど。周りも結婚ラッシュだろ。俺ら独身だけ搾取されてくのは不公平だよな」
「じゃあ欠席したらいいんじゃないか。新郎新婦はひと集めるのに必死なんだ。本当の親友と身内以外は、ぶっちゃけ義理だぞ」
無情極まりない返答をすると、藤間は「これだから仕事大好き男は」などと文句を呟いた。
仕事に集中したい為適当にあしらおうと思っていたが、何となく勘づいて手を止めた。
「ああ、わかった。彼女ができたんだろ」
矢代が振り向くと、藤間は露骨に嬉しそうに頷いた。
「そう!! 可愛いんだ! ……ただ、いろいろ問題ある子なんだけど」
「良いじゃないか。ちょっとぐらい問題ある方が絆が深まるだろ」
……なんて、我ながら恥ずかしいことを言ってしまった。
第一、自分と秋の間に問題は山積みだけど、それで深まったのは絆じゃなかった。
固く冷たい鎖で縛った関係。彼からすればただの地獄だ。
「やっぱり、そうだよな! お前も良いこと言うじゃんか」
「はは……。で、どんな人なんだ? 子持ち?」
「違う」
冗談のつもりで言ったんだけど……藤間からは恐ろしい殺気を感じた。
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