シャッターを切るときは

七賀ごふん

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盗撮⑴

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「それじゃ、もう遅いから気をつけて帰れよ。くれぐれも気をつけて」
「何でそんな念を押すんですか?」

苅谷が不思議そうに尋ねてきた為、矢代は言葉に詰まった。正直に言っていいものか迷った末、足を止める。
「お前、最近調子悪いんじゃないか? たまたま見たんだけど、この前廊下を歩いてる時ボーッとして壁に激突してたろ」
「それはいつもですけど」
何だか、二重で溜息がもれそうになった。
「怪我しないか心配なんだ。秋の方がテキパキ動いてるぐらいだし」
「秋?」
苅谷は、矢代の言葉を反復した。

しまった……!

矢代は思わず口を手で覆いそうになった。
さっきまで彼の名を呼んでいたから、口をついて出てしまった。手を引っ込め、あえて何でもないように頷く。最悪、自分のクラスの問題児だと説明しよう。秋には絶対恨まれるだろうけど。

ところが、苅谷の反応は予想と反するものだった。

「秋って、先生のクラスの風間君のことですか?」
「あ、あぁ。……そうだよ。よく知ってたな」
「話したことあるんですよ。小塚の友達らしいから」

そうか、そういえば体育祭の後苅谷に会いに行ってたな。
色々あって失念していた。平然を装い微笑を浮かべるが、ほとんど苦笑いだ。
自身に呆れていると、苅谷は思い出したように腕を組んだ。

「確かに、あの子しっかりしてそうですよね。しっかりっていうか、……そう見せるのが上手い、っていうか」
「……」

苅谷は「それも何か違うな」と言い、ヘッドホンを付けて踵を返した。
「じゃあ俺はもう帰ります。お疲れ様でした」
何とも淡々とした挨拶の後、彼は去って行った。


彼のことは一年の時から見ているが、全く変わらない。
変わらなすぎて心配だ。まぁでも、生徒会に入るぐらいだから成長はしてる。
そう思ったところで、ふとさっきの苅谷の言葉が頭に浮かんだ。

生徒会に行くのが面倒というのは、やはり須佐と上手くいってないからか。
もしかしたら、生徒会に入ったのは苅谷の意志じゃない。須佐がいるから生徒会に入ったか、もしくは須佐が、無理やり苅谷を生徒会に入れた……。

でも彼らがいつ頃から付き合い出したかは分からないから、そんな推測はするだけ無駄だろう。

矢代は職員室に直行した。入ってすぐ、彼を見たひとりの若い教員が険しい顔で近付いてきた。

「矢代先生、ちょっといいですか?」

彼は、英語教師の藤間広夢。
矢代がこの学校に就任したときからの付き合いで、教員の中では一番気が知れた人物だった。




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