シャッターを切るときは

盗撮⑴

１

また曖昧な答え方をしてしまった、自分に嫌気が差す。本当はもっと、素直に気持ちを伝えたいのに。
彼に対しては、自分でも呆れるぐらい女々しい態度をとってしまう。

「わかったから泣くな」

矢代は秋の涙をすくいとって、目を細める。彼の後頭部に手を添え、抱き寄せた。

「泣かせてまで聴きたかったわけじゃないから……」

彼の手は、温かい。
「ちがうよ……これは俺が勝手に」
そもそも何故涕泣しているのかも分からない。早く泣きやみたくて涙を拭こうとするけど、矢代に両手を押さえつけられてしまう。
それと同時に、キスをされた。
「今、どんな気持ちだ？」
「……？」
矢代の質問の意図が読めなかった。でも、素直な感想を返した。
泣いてるけど、悲しいわけじゃない。不安も消え去っている。
それより彼がようやく自分を真っ直ぐ見て、気持ちを知ろうとしてくれてることが嬉しい。

「ホッとしてる」
「そっか。……俺も」

先生も……俺と同じ気持ちなんだ。

「秋。……好きだ」

そして告げられたのは、短い言葉だった。だからこそ、今のぐちゃぐちゃな頭でもすぐに理解できた。

「お前のことが好き。……駄目かな？」

先生の声はいつもと変わらない。それなのに、不安そうに首を傾げてる。そんな姿は初めてだ。
「秋、答えを……」
優しい力でベッドに押し倒される。
彼を見上げる体勢に、思わず鼓動が速まった。
「俺も……先生のこと……っ」
言わなきゃ。そう思って目を開けた時、彼は予想外の台詞を吐いた。
「待った。やっぱり答えなくていい」
「は？」

───急にどうして？

あっけにとられている秋に、矢代は覆い被さった。そして秋の茶髪を愛おしそうに指で梳かしながら、甘い声で囁く。

「やっぱり、新鮮な関係を保っとくのも悪くない。何もお決まりの言葉で片付ける必要はないんだし」
「何？ どういうこと？」

矢代の言おうとしてる意味がわからず、秋は怪訝な表情を浮かべる。しかし矢代は全く意に介さず、自身の考えを話した。
「秋、盗撮はもうやめていい。どっちにしてもそろそろ潮時だ。今年中、なんて言ったけど……このまま続けたらタダじゃすまない。俺も、お前も」
矢代の指は、秋のあらゆる場所を愛撫していった。最終的にたどり着いたのは、下の方。
彼の思考は、本当にぶっ飛んでいると思う。

「俺達は恋人でもないし、セフレでもない。それでいいんだよ。お互いに、絶対に知られちゃいけない秘密を持ってる。簡単に引き離されるような関係じゃないさ」