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洞察⑶
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しおりを挟む「でも、そうだな。考えなんて分からなくて当然だ。俺はお前のことをまだ全然知らない」
矢代は秋の襟を掴み、自分の方へ引き寄せる。
鼻先が触れてしまいそうなほど近い距離にドキッとしたが、矢代は手を離すことなく、逆に力を入れた。
「隠してることが多いのと、自分の気持ちもよく分かってないから。他人から見たら不思議でしょうがない人間だと思うよ、お前」
秋は唾を飲み込む。
怒ってるんだろうか。いつもの流れならきっとそうだろう。でも今は別に、ピリピリした空気は伝わって来ない。
代わりに、初めて突きつけられる視線に息が苦しかった。
「だけど」
奥の奥まで見抜こうとしてくる彼の強い眼差しに気圧されてしまう。
「さっき自分でも言ってたけど、俺とすることは嫌じゃないんだろ? むしろ、もっとしたいって顔してたもんな」
「……っ!」
かなり恥ずかしいことを指摘されている。
あと、まるで性欲強い奴認定されていて嫌だ。
最初はこんなんじゃなかった。矢代の色気を纏った声で囁かれると、その気がなくても昂ってしまうし。
でも果たして、それだけなんだろうか。
「セフレは嫌。で、今の関係はもっと嫌。恋人も嫌。じゃあ結局どうしたいんだ? 分かれ、と言う方が無理だろ」
「で、でも……」
「だから、したいことを包み隠さず話せ。俺はもう伝えたから、今度はお前の……本当の気持ちを」
本当の気持ち?
秋は矢代から視線を逸らした。
俺の方が、自分の気持ちを誤魔化してるとでも言うんだろうか。
「秋。……俺が嫌いか?」
矢代は、静寂を崩さない声で問い掛けてきた。表情も……初めて見る、頼りないもので。それを目にした瞬間、ずっと守っていた何かが零れた。
既に解けていたネクタイは、矢代が手を離したことで秋の膝の上に落ちる。
けど落ちたのはそれだけじゃない。
頬に伝わる熱が……雫となって自分の膝をぬらしていた。
「わかんない……」
本当に、怖かっただけだ。また誰かを好きになることが。
傷つくことが……あの胸が締めつけられる様な想いは、二度としたくなかった。
一番好きだった辻村の行為を見て、この人の前で泣きじゃくった時と同じ。悲しい想いを味わいたくなかっただけ。
なのに今は、それ以上に苦しい。
失恋したわけじゃないのに、色んな感情に押し潰されそうになってる。
「わかんない……けど」
秋は乱暴に目元を袖で拭った。
「嫌いじゃないよ。先生のこと、苦手だけど……嫌いじゃない」
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