シャッターを切るときは

洞察⑶

４

『大体、毎回手ぇ出してくんのは先生だろ……！ この状況だって、普通にしてれば何事もなく帰れたのにさ！』

秋はバレないギリギリの声量で抗議した。
実際、部屋の隅に男二人で隠れるのは体勢的にもきつい。
『そうか？ 予想外にカップルを見つけたんだから、もっと喜んでもいいと思うけど』
そういう問題だろうか。適当に丸め込まれてるだけの気がする。
そしてこっちの論争など露知らず、側の二人の“行為”は進展していた。

「あぁ……っ！」

カーテンの中の張り裂けそうな声に、秋はビクッとした。
『何ビビってるんだ』
『ビビってねぇよ！ 驚いただけで……』
『それをビビってるって言うんだよ』
呆れながら見返す矢代に、秋は泣きたくなった。なんせ、嫌でも向こうの声が耳に入ってしまうから……意識してしまっても仕方がない。

「は、あっ……、ん……！」

駄目だ。彼らの声が……。
いたたまれなくなって、秋は瞼を伏せる。それでも耳を塞がないと、喘ぎ声が入ってくる。
だがそれとは別に、矢代は眉間に皺を寄せて呟いた。
『秋、大変だ。腰が痛くなってきた。どうする？』
『どうって……終わるまで待とう、って貴方が言ったんですけど？』
秋はさっきの恨みを込めて返答する。
『それと確かに、鍵を開ける前に気付かれたら大変なことになるし』
しかし矢代は割と真剣な顔で、冷静に分析したであろう意見を述べた。
 
『あぁ。でも多分、二人とも繋がってる最中だぞ。仮に気付かれても、ドアの方を確認するには一度そこの角を曲がらないといけないから服を着てからじゃ時間がかかる。……とはいえ下半身裸のまま確認しに来たりしないだろ？ 増して勃起してる姿で』

秋は真面目に矢代の話を聴いていたが、途中からは聴くに耐えず、俯いた。
『でもさぁ……とりあえず大人しくてしてようよ。我慢我慢』
『何だ、さっきまで俺を責めてた癖に急に弱気になったな。もしかして』
矢代は悪いことを思いついたと言わんばかりの憎らしい笑顔を浮かべる。そして秋の肩を抱き寄せて、耳元に吹き込む様に囁いた。

『……彼らのセックスを最後まで見たいとか？』

ドキッとした。矢代の声はとにかく色気を含んでいる。
『んなわけねえだろ……っ！！』
反対に、秋の声はひどく上擦っていた。