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洞察⑶
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しおりを挟むギリギリまで近付いてくる足音に、ドキドキする。
そもそも、何で隠れる必要が?
秋は矢代を見て反応を待つが、彼は人差し指を口に付けたまま「黙ってろ」と口元を動かすだけだった。
「あーあ、今日の授業ほんとだるかったな。頭使うのばっかでさ……」
「な。でも明日は休みで良かったよ」
入ってきた二人は秋達に気付かず、雑談を始めてしまった。しかし秋はそこで、矢代の目的に気が付いた。
あぁ。“そういう”ことか。
保健室は会話を楽しむ場所じゃない。具合の悪い人間が来る場所だ。けど、彼らは……、
「それより鍵かけなきゃな。放課後だしどうせ誰も来ないだろうけど」
最悪。最悪中の最悪だ。秋は臍を噛む。
いや、ある意味では僥倖なのかもしれない。矢代と一緒にいる今の状況なら……カメラを用意する必要がないから。
「でも、ホントに大丈夫かな。やっぱり俺の家に行った方がいいんじゃ……」
「大丈夫だよ。早く座れって」
三つ並んでいる、一番端のベッドに彼らは座り、備え付けのカーテンでしきってしまった。
それには正直ホッとする。この状態なら彼らに見つかることはないだろう。逆に、自分達も彼らの状況は分からなくなるが……見つかるよりは何倍もいい。
これから始まる出来事の為には。
「じゃ……シよっか」
ベッドが軋む音がして、それからは思った通りのシチュエーションだった。
凍てついた場を支配する、いやらしい水の音。
どうしようもないけど、セックスの予兆だ。
うあぁー。始まっちゃったよ……。
ひとりならまだ耐えられるのに。
ため息をつきたくたなる様な状況で、秋は矢代の耳元に囁いた。
『ねぇ、こっそりドアから出ていけないかな?』
『…終わるのを待った方が良いんじゃないか』
矢代は諦めた様に言うが、秋は絶対に嫌だった。
早く帰って休みたいのもあるが、こんな空気の中ひたすらじっと終わるのを待つのは御免だ。増して、彼なんかと。
「ちょっと……! もっと……ゆっくり入れろよ」
「ご、ごめん」
少年達の会話が聞こえた直後、矢代は笑いを堪えた様子で囁いた。
『ふっ、お前と同じこと言ってる。良かったな、彼らも初心者みたいだぞ』
『おい、ふざけんな……』
秋は頬を紅潮させる。
心当たりがまったくないわけじゃないが、怒りと羞恥が大き過ぎる。
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