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洞察⑶
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しおりを挟む矢代は言葉通り愉悦に満ちた笑みを浮かべている。全く不満を抱いてなさそうだった。
「仕事は何だかんだ言ってやり甲斐がある。キツいことの方が遥かに多いけど、生徒と関わるのは楽しい。お前も頑張って教師を目指してみたらどうだ?」
「はぁー? 先生を見ててなりたいと思うわけないだろ」
秋は矢代からスマホを受け取ると、忌々しいと言わんばかりに一笑した。彼とは色々あったが、この数ヶ月はとにかく濃かった。
助けてもらったこともあるが、総合的に考えて彼が憎い。校則違反を黙っててもらうにしても、お釣りがくるような罰則だと思う。盗撮なんて犯罪行為、バレたら退学だろう。
第一、それ以外でもヤバイことされてきたし。
それに教師が生徒に盗撮を強要なんて、バレたらクビじゃ済まない。ニュースに流れて全国デビューだ。
でもそうなったら俺ももうこの学校に来るのが嫌になりそう。ずっと先のことを考えたとき、足枷にしかならない気がする。
「うーん。確かに、親の対応とかは大変かな。主任の板挟みも、寛大な心がないとやってられない」
「そうだよ。俺が大人だったら、高校生に反抗されたらムカついて殴るわ。それに校則破る問題児がクラスに絶対いるじゃん。ストレスたまって頭おかしくなりそう」
「確かに。ただひとつ言わせてもらうとすれば……俺のクラスで面と向かって反抗したり、校則を破ったりした問題児はお前だけだ」
矢代は鋭い眼差しで秋を見据える。
しまった……。
すっかり自分の罪を忘れていた秋は、気まずそうに口元を手で覆う。
「その感じだと、相変わらず全く反省してないみたいだな。もう一回思い出させてやろうか?」
「わ、悪かったって。大丈夫、大丈夫だから!」
何が大丈夫なのか、自分で言っといて分からないが……とりあえず非を認めないことには帰れない。矢代の逆鱗に触れて、痛い目に合うのはもう懲り懲りだ。
「じゃ、そろそろ帰ろっかなー……」
この場を抜け出したくて秋がそう呟いた時、ふと廊下から生徒の話し声と足音が近付いてきた。
「あ。先生、人が……」
来たかもしれない。
そう言いかけた瞬間身体を引っ張られ、秋はベッドの影に押し倒された。
「何す……んっ!」
慌てて抗議しようとしたが、矢代は秋の口を手で塞いでしまった。
同時にドアの部屋が開かれる。
足音と声から察するに、二人組の生徒だった。
そのうちのひとりが、安堵したように呟いた。
「お……良かった。誰も居ないみたいだな」
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