シャッターを切るときは

七賀ごふん

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洞察⑵

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秋は先程まで見ていた二人に、再び視線を戻す。 
仲良さそうに……というよりは、ひとりの少年が強引にもう一方に歩み寄ってるようだ。
その少年とは、さっきの開会式で挨拶をしていた生徒会会長の須佐幸裕。そしてもう一人は、

「会長も知らないんだから、誰だか分からないよな。あっちは三年で生徒会書記の新里」
「へぇ。会長は何してんの? 副会長の苅谷さんと付き合ってんのに、あの人とイチャイチャしちゃって」
秋が問いかけると、矢代は頷く。
「あいつはあの通りヤンチャで、気に入った奴に手を出してるみたいなんだ」
「そんな噂全っ然聞いたことない」
「騒がれないように揉み消してるんだろ。……苅谷に気付かれない様に。隠し事してるって点では、お前と一緒だな」
共通点なんて本当にそれだけしかないのだけど。
矢代は意地の悪い笑顔を秋に向けた。
本当に性格悪い。無論、自分も。

「完璧そうな人の意外な一面だね。でもカウントにならないんじゃ俺も興味ないな。ジュースぬるくなるからもう行くよ」
「あぁ。……そうそう。秋、皆が言ってたけど小塚とリレー出るんだって? 頑張れよ」

矢代もまた、反対方向へ去って行った。

頑張れ……か。
凄いアッサリした“頑張れ”だった。
それなのに、何かちょっとだけ……、嬉しく思ってしまう。
「あ、アキやっと戻って来た!」
「悪い、遅くなった」
ジュースを手渡して、秋は椅子に腰を下ろす。
「よっし、行くか!」
「俺今座ったばっか……」 
「雰囲気掴むためにも行こうぜ? な?」
必死に手を合わせる小塚に秋はため息をついたが、やがてやれやれと立ち上がった。
「しゃーない、行くか」
「おう!」
とはいえ、どちらかというとリレーは嫌いだ。
前走が遅ければ巻き返しに苦労するし、自分が頑張っても次に走る人間が遅ければ水の泡になる。

……なんて、卑屈に考えるな。

順番待ちをしてる間、秋は小塚と目が合った。
彼は笑って親指を突き立てる。

できる限りでいいから、本気でやろう。
とうとう自分の番が来て、最前列へ並んだ。
前の地平線上を目に焼き付けて、息を深く吸う。
現在の順位は二位。悪くなかった。少しだけ脚を伸ばして力を込める。
後ろから走って来た生徒と手が触れた瞬間、風を切る時間が始まった。




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