シャッターを切るときは

七賀ごふん

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洞察⑴

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地雷だ。そっちの方向に話を持っていかれると嫌でも目が覚める。
「さっすが、すごいですねー。僕は体力も性欲もないんで羨ましいです」
最大限皮肉っぽく言い捨てる。しかし直後に身震いした。
さむ……っ。
外気に触れるとものすごく冷える。

「ドア閉めてよ。すごい寒い……」
「あぁ」

矢代はドアを閉めて乗り込むと、思い出したように秋に缶コーヒーを差し出した。
「そう思ってな。ほら」
受け取ったコーヒーはホットで、冷たかった手は一気に温まった。
「ありがとう。でも俺、ブラック飲めない」
「子どもだな」
矢代は想定していたらしく、もう一本の熱い紅茶に交換した。
 
「ど~も……」

何だか悔しいような恥ずかしいような気持ちがあったが、せっかく貰った物なのでぬるくなる前に飲んだ。
「暖房は入れたけど、確かブランケットがある」
住所を伝えた後、矢代はわざわざ後部座席からブランケットを出して渡してくれた。
「着くまで寝てろ」
「うん……」
しかし発車した頃には、もう秋の眠気は飛んでいた。
特に話すこともない。起きてるのが気まずくなって、寝たふりをした。
矢代も声を掛けない為、そのまま時間だけが流れていく。

あったかい……。

さっきまでは最悪だったのに、ここは心地いい。
だから迷ってしまう。
いつもあれだけ傍若無人な態度をとるくせに、何でこういう時は優しいんだろう。

反抗するとその倍にして酷いことをしてくる。でもこっちが弱ってる時はいつも優しくしてくれる。
辻村の時も、階段で落ちそうになった時も。

何となく瞼を開けた。窓の外を見ると、もう見覚えのある景色が映っている。家が近いようだ。
今度は反対側、運転している矢代を盗み見た。
いつもよりずっと整然とした姿勢。……真面目な表情をしている彼は。
生徒達の前で取り繕ってる顔でも、自分に対して見せるきつい顔でもなく、全くの別人に見えた。
「寝ないのか?」
「えっ」
突然問いかけられて声が上擦る。彼はこっちを一度も見なかったのに。……仕方ないから諦めて返答した。
「眠くなくて……」
「そうか」
彼はそれ以上踏み込んでこなかった。

……何だろう。

何でこんな、もどかしいんだ。




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