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観察⑶
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しおりを挟む「……矢代先生、今度またテスト前に勉強見てもらってもいいですかっ?」
「あぁ、もちろんいいよ。今は部活を見なきゃいけない日もあるから、急ぎなら授業の後とかかな」
矢代と他愛もない談笑をする。会話の内容は正直どうでもいい。砂川は爽やかな笑顔をつくりながら考えていた。
……そろそろ告白してもいい頃合いかな。
矢代は仕事の手を止めてこっちの話に付き合ってくれたし、今が一番良いタイミングだろう。
あまり引き伸ばしすぎて機嫌を損ねるのはマズい。
「あの……矢代先生」
「ん?」
廊下は大丈夫。風間が見張ってくれてるはずだ。
「驚かないで聴いてほしいんですけど……」
砂川は距離を詰める。そして椅子に座っている矢代の肩を掴んだ。
「俺、先生のことずっと気になってて……本気で好きになっちゃったんです。俺と、付き合ってくれませんか?」
「は?」
案の定、矢代のリアクションは薄かった。
「ははっ。砂川、それは何の罰ゲームだ?」
「遊びなんかじゃない、俺は本気で言ってるんです。だから先生も本気で答えてください」
二人のやり取りが微かに聞こえる。
秋は聞き耳を立てながら二人の動向を見守った。
先生、どうすんのかな……。
OKしたら、もうゲイのカップル捜しなんて飽きてくれるかもしれない。だとしたら願ったり叶ったりだ。そんな僥倖、まずない。
でも同時に、先生にとって俺はどうでもいい存在になる。
それはちょっと……やっぱり……。
「あ」
改めて中を覗いた時、息を飲んだ。
砂川がとんでもない体勢をとっていたからだ。彼は前に乗り出し、少しずつ矢代に顔を近付けていく。
え!!
まさかと思いたかったが、間違いなく矢代とキスをしようとしていた。
時間が止まったように、二人の距離が縮まるさまを見守る。
「先生……んっ!?」
しかしその寸前、砂川の口は矢代の手で塞がれてしまった。
「ごめんな。速い展開は嫌いじゃないんだけど、人に見られる趣味はなくてね。廊下に居るのは誰だ?」
「んん……っ!!」
砂川はやっとの思いで矢代から離れた。
「何言ってんですか。外には誰もいませんよ」
「そっか。じゃあ何だろうな? 俺は二人分の足音が聞こえた後、お前だけが部屋に入って来たからずっと気になってたんだよ」
「……!」
砂川は臍を噛む。
そんなに大きな音を立てて来たわけではなかったので油断してしまった。
「ひとりで……告白するのが怖かったから、友達について来てもらってて……」
「ほう、それはすごいな。友達が見守ってくれるならキスする勇気まで出ちゃうのか」
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