シャッターを切るときは

七賀ごふん

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観察⑶

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「あっ、風間くんじゃん。久しぶりだねぇ」
「どーも、維さん」

昼休み、秋は小塚と一階にある購買へ来ていた。そこのレジで佇む黒髪の女性、維がふたりに柔和な笑顔を向ける。
小塚は秋と維が顔見知りなことに驚いていたが、美人の笑顔に気を良くしたらしい。
「今日はこいつが昼飯奢ってくれるって言うんで」
「そうなの? 太っ腹だねえ。良い友達じゃん」
「いやー、それ程でも。へへへ……」
小塚は見てる方が心配になるほど、明らかに舞い上がっていた。彼女は美人だから、ここの女に飢えてる男子生徒にとっては女神の様な存在かもしれない。

「あ、ねぇ風間くん。前に言われたことだけどさ」
「はい?」

維は小塚が買うものを選びに行った隙に、秋にだけ聞こえる声で囁いた。

「ほら、ゲイの子を見つけたら教えてって言ってたでしょ? ……私、実は見つけちゃったんだよね」
「マジで!?」

ここにきて、それは素晴らしい情報だ。驚きより喜びの方が勝っていることに内心戸惑いつつ、彼女の話に食いつく。
「ん~……でもどうしよっかな。タダじゃ教えられないかもぉ」
維は勿体ぶった様子で首を傾げた。少々わざとらしい素振りだが、むしろ余計気になってしまう。
駆け引きというか、取り引きをしたいんだろうか。

「あ、俺貧乏なんで金は持ってませんよ」
「やだなぁ、お金なんてとらないよ! でも君は“それ”について調べてるから、当然既に見つけた子達がいるんだよね? その男の子達を教えてくれたらいーよ」

彼女の条件は予想外なものだった。
何故そんな事を気にするのか理由を訊きたかったけど、それすら何か条件を出されそうで……。

「どう? 君の知り合いの中にもいたりしたかな」

ふと、辻村のことを思い出した。
彼はもう自分とは何の関係もない。友達でも、クラスメイトでもない。彼がどんな目に合おうと、自分は。
……でも。
「すいません。それは無理です」
俺がこの目で見てきた人達を……矢代以外に教える気にはなれなかった。
どこかで信じていたからだ。先生は、彼らの情報を悪用したりしないって。
「……そっか」
維は納得した様に微笑んだ。
「男だね、風間くん!」
「え」
「例え関係がなくても、君にとっては大事なことなのかな。いいよ、そういうの。惚れちゃいそう」
「えぇ……?」
とても嬉しそうに話す維に、意味が分からなくて混乱した。
ちなみに惚れてくれても全然困らないけど。

彼女が何を求めてるのか、正直なところ全く分からない。けど、維は手招きしてから秋の耳元に小声で囁いた。

「じゃ、そんな風間くんにはとっておきの情報をあげる」




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