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観察⑵
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しおりを挟むほとんどの生徒が下校した、薄暗い教室。
居心地が悪いのは、夕闇のせいか、背中に当たる壁の冷たさのせいか。
はたまた目の前に立つ担任の威圧のせいか。秋はいまいち推し量れずにいた。
「……距離近すぎ。離れてくれない?」
この張り詰めた空気に耐えられなくなって、声を張り上げる。
だけど、彼はそんな“逃げ”を許さない。
逆に腰を掴まれ、引き寄せられる。
「秋、今度は撮りながら自慰でもしたらどうだ。大好きな性欲処理もできて一石二鳥だろう」
「はぁ!? ふざけんな!!」
あまりに卑猥で挑発的な発言に秋は憤慨する。
しかしそれは逆効果で、矢代は低いトーンで秋の耳元に囁いた。
「ふざけてるのはそっちだろう。誰が他人のセックスに欲情して良いなんて言った」
そう問い掛ける。矢代は今、どんな感情を抱いているのか。
「痛っ!?」
それがわかったのは、ネクタイを思いきり引っ張られて床に膝をついた後だった。燃える様な怒り。それだけはひしひしと感じ取れる。突然のことで何が逆鱗に触れたのか分からないけど、確実にキレてる……。
恐ろしいので、俯いた状態でキープした。彼が今どんな表情なのか知るのも怖かった。
「そんなに須佐と苅谷のセックスは激しかったか? ……いや、お前は辻村達の時にも勃起してたもんな。何にせよ童貞君には刺激が強いってことか」
もう矢代の声から怒気は感じられない。
が、ネクタイは未だ握られたままだ。怖……。
「他人は他人だよ、秋。必要以上の干渉も野暮な好奇心を持つのも許さない」
矢代の声音は冗談を一切感じさせない。
そして徐ろに立ち上がると、秋にとって残酷な言葉を口にした。
「お仕置きが必要だな。少し耐性をつけてもらう」
「は……!?」
なにかの聞き間違いかと思った。
でも、多分聞こえた通りだ。
「いやいや、ちょっと待ってよ。何て?」
ここで秋はようやく顔を上げることができた。とはいえ今度は別の焦燥に駆られている。
対する矢代は冷徹な瞳で彼を見下ろしていた。
「意味分かんねぇ……そりゃ、俺も他人の見てあんなんなったのは、やばいと思ってるよ。でも興奮したら駄目みたいなルール、初耳だし」
「あぁ。今決めたからな」
「勝手過ぎるだろ! 後出しは卑怯だぞ!」
「何を今さら。俺の命令は絶対だってこと。まさか忘れてないだろうな」
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