上 下
18 / 158
観察⑵

しおりを挟む


ほとんどの生徒が下校した、薄暗い教室。
居心地が悪いのは、夕闇のせいか、背中に当たる壁の冷たさのせいか。
はたまた目の前に立つ担任の威圧のせいか。秋はいまいち推し量れずにいた。
「……距離近すぎ。離れてくれない?」
この張り詰めた空気に耐えられなくなって、声を張り上げる。
だけど、彼はそんな“逃げ”を許さない。
逆に腰を掴まれ、引き寄せられる。

「秋、今度は撮りながら自慰でもしたらどうだ。大好きな性欲処理もできて一石二鳥だろう」
「はぁ!? ふざけんな!!」

あまりに卑猥で挑発的な発言に秋は憤慨する。
しかしそれは逆効果で、矢代は低いトーンで秋の耳元に囁いた。
「ふざけてるのはそっちだろう。誰が他人のセックスに欲情して良いなんて言った」
そう問い掛ける。矢代は今、どんな感情を抱いているのか。

「痛っ!?」

それがわかったのは、ネクタイを思いきり引っ張られて床に膝をついた後だった。燃える様な怒り。それだけはひしひしと感じ取れる。突然のことで何が逆鱗に触れたのか分からないけど、確実にキレてる……。

恐ろしいので、俯いた状態でキープした。彼が今どんな表情なのか知るのも怖かった。
「そんなに須佐と苅谷のセックスは激しかったか? ……いや、お前は辻村達の時にも勃起してたもんな。何にせよ童貞君には刺激が強いってことか」
もう矢代の声から怒気は感じられない。
が、ネクタイは未だ握られたままだ。怖……。

「他人は他人だよ、秋。必要以上の干渉も野暮な好奇心を持つのも許さない」

矢代の声音は冗談を一切感じさせない。
そして徐ろに立ち上がると、秋にとって残酷な言葉を口にした。

「お仕置きが必要だな。少し耐性をつけてもらう」
「は……!?」

なにかの聞き間違いかと思った。
でも、多分聞こえた通りだ。
「いやいや、ちょっと待ってよ。何て?」
ここで秋はようやく顔を上げることができた。とはいえ今度は別の焦燥に駆られている。
対する矢代は冷徹な瞳で彼を見下ろしていた。

「意味分かんねぇ……そりゃ、俺も他人の見てあんなんなったのは、やばいと思ってるよ。でも興奮したら駄目みたいなルール、初耳だし」
「あぁ。今決めたからな」
「勝手過ぎるだろ! 後出しは卑怯だぞ!」
「何を今さら。俺の命令は絶対だってこと。まさか忘れてないだろうな」




しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

学園奴隷《隼人》

BL / 連載中 24h.ポイント:575pt お気に入り:373

悪役令息レイナルド・リモナの華麗なる退場

BL / 連載中 24h.ポイント:16,904pt お気に入り:7,351

花と外道

恋愛 / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:4

拗れた初恋の雲行きは

BL / 完結 24h.ポイント:142pt お気に入り:144

異世界ゆるり紀行 ~子育てしながら冒険者します~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:47,974pt お気に入り:35,459

彼氏の愛が重すぎる

BL / 連載中 24h.ポイント:142pt お気に入り:53

Lost†Angel

BL / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:311

甘えたオメガは過保護なアルファに溺愛される

BL / 連載中 24h.ポイント:376pt お気に入り:1,893

その青空を僕は愛した

BL / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:25

学校にいる人たちの卑猥な日常

BL / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:216

処理中です...